「ジェームズ。準備はいいか?」
「勿論さ! 今年も優勝杯を僕らグリフィンドールが掻っ攫っていくんだ! リリー、見ていてくれよ!」
「私レイブンクローを応援しようかしら…」
「おいこらエバンズ! ジェームズは無視してそこはグリフィンドールを応援しろよ!」
「シリウス! 僕を無視してってどういうことだい?! ま、まさか……君、リリーを狙っているのかい…ッ!? 素直に白状したら親友だから半殺し程度にしてあげるよ!」
「だ、誰がこんな暴力女狙うってんだ! お前くらいしかいねーよ!」
「あ」

「ブラック? 今、何か言ったかしら…?」
「……い、いや、何も…」
「あらそう?」
「……今日って本当にクィディッチの優勝争いだっけ…。ぼく、分からなくなってきたよ…」

朝っぱらから騒がしいジェームズはいつも通りである。ピーターの突っ込みはジェームズ達に聞こえることはなく、シリウスとリリーは言い争いをしている。

朝食の後、優勝杯をかけてレイブンクローとグリフィンドールのクィディッチが行われると言うのにこの余裕っぷりだ。

いつも通りなのは良いけれど、もう少し緊張感を持てないのか。しかしそんなものをこの二人に求めても最初から間違いなのである。いつも以上のプレイを心掛けてくれるように祈るしかない。心配するだけ無駄なのだと学んでいる私はため息を吐いた。


「なまえ。よかったら一緒に観戦しないかい?」
「…うん、いいよ」
「あら、そうしたら私はお邪魔かしら?」
「リリーも一緒だからね!」
「いいのよ、無理しなくても」
「無理してないから! 変な誤解しないで!」
「そこまで強く否定されると僕も落ち込むなあ」

少し困ったように眉を下げるリーマスを見て「そこまで思っていないくせに」と、心の中で悪態を吐く。何だかんだで結局みんなと観戦することになった。何も誰かと限定する必要はないのだ。四人で応援すれば、グリフィンドールは優勝すること間違いなしだ。選手でもないのに私の方が緊張してきた。

いつも通りに、いつも以上にプレーをすることが出来れば大丈夫だ。なんたってチェイサーのジェームズがいるのだ。無駄に周りからキャーキャーと黄色い声が上がっているのだから、それほど心配することはないだろう。

「ジェームズ。頑張って!」
「任せといて! リリーとなまえの為にも優勝してみせるから!」
「私はいいからリリーの為に頑張ればいいのに」
「な、何言ってるのよ! 私の為に頑張られても迷惑だわ!」
「はいはい」
「なまえ!」

顔を真っ赤に染め上げ怒鳴るリリーは、恥ずかしくてたまらないと全身で表しているようだ。怒られているはずなのに今日はそれほど怖くないかなとのんきに思っていたら、ポキポキと指の骨を鳴らすリリーさん。ちょ、待って。からかい過ぎた。

「覚悟はいいかしら?」と般若のような顔をしながら言うリリー。あれ、私ってば疲れているのかしら? リリーのたっぷりとある赤毛がゆらゆらとメデューサの髪のように揺れて見える。からかうんじゃなかったと、深く後悔した。


二人の活躍を良い席で観戦しようと一番前か一番後ろかで悩んでいると、リリーが「一番前の方が見やすいんじゃない?」と言ってきた。そうかそうか、リリーはジェームズの活躍をそんなに見たいんだね。「ジェームズの勇姿がそんなに見たいんだね」と私が言うよりも先にリーマスに言われてしまい、リリーは再び顔を真っ赤に染めながら「違うわよ!」と怒鳴る。

相変わらず照れ隠しが全面的に出るよね。って、何だか私ジェームズみたいなことを言っている気がする。

でもまあ見ての通り、最近のリリーは分かりやすくなってきた。本当に、あとは時間と本人達次第なんだけどな。


「なまえ。もうすぐだからちゃんと応援しようか」

試合開始前にそんなことを思っていたら、隣から声がかかった。困ったように笑うリーマスだ。私が何を考えていたのか分かってそんな顔をするのか。私は別に、リーマスが思っているようなことは考えてはいない。前まで「なまえのことは大抵分かる」と言っていたくせに何なんだ。その違いに、私は無性に腹が立った。

グリフィンドールとレイブンクローの代表選手が箒に跨がり飛び出てきても、どんなにジェームズが点を稼いでも、シーカーがスニッチを掴んだ瞬間も、グリフィンドールが優勝をしても、心の中は行き場のないもやもやとしたものでいっぱいだった。

優勝争いの大事な試合なのに、私はどうしてこんなもやもやとしたものを抱え込まなければならないのか。ジェームズに申し訳ない。ひっそりとため息を吐いた。


寮に戻ると談話室ではもうお祭り騒ぎをはじめていた。活躍した選手はみんなにもみくちゃにされ、ジェームズも同様だ。「さすが親友だぜ!」とシリウスがジェームズに突っかかっている。

ジェームズの癖っ毛が揉まれに揉まれてこんがらがって大変なことになっている。

シリウスも黙っていれば二枚目かなと思うくらいだからなのか、このお祭り騒ぎの真っ最中に近付いてくる女子生徒が後を断たない。「ちょ、何処触ってんだ?!」と言うシリウスの声が聞こえてくる。女子に人気があり過ぎるのも考えものだね。

「なまえ! 今年もグリフィンドールが優勝杯を獲得ね!」
「学年末まで何処かの誰かさんが悪戯で点数を削り取らなければね」
「なまえ。もし一点でも減点されたら、私何するか分からないわよ…?」
「捕まらなければ大丈夫! …たぶん」
「なまえ!」
「しない! やらないよ!」

「本当かしらね?」とリリーが睨みを利かせてくるので来年まで大人しくしていよう。我慢が続けばの話だけれど。

ジェームズとシリウスはまだ揉みくちゃにされている。けれど時折、ジェームズと目が合う。きっと私ではなくてリリーに近付きたいのかもしれない。そろそろ揉まれるのも飽きた頃だろうし。

杖を取り出し「アクシオ、ジェームズ・ポッター」と呟けば、ジェームズは人混みを無理矢理掻き分けて此方までやって来た。その際更に髪がグシャグシャになり眼鏡が少し折れ曲がってしまったけれど、ジェームズなら自分で直せるから大丈夫だろう。シリウスは、まあ頑張って?

ジェームズに「貸し一つね」と呟き、リリーに「疲れたから風に当たってくるね」と言い談話室を出る。

途中厨房に寄って、冷めないように魔法をかけてもらったココアを受け取り外に出た。まだ就寝時間にはなっていない為、これならフィルチに見付かっても罰則にも減点にもならないし、リリーの最上級の雷が落ちる心配もないだろう。

いつものように少し高い塔から空を仰ぐ。真冬は日が沈むのが早い。すでに辺りは暗く、満天の星々が私を出迎えた。

ぶるりと寒さで身体が震える。ローブやマフラーはしっかり装備して来たけれど、肝心の保温魔法は未だに覚えていなかった。ココアを飲んで暖まっているとはいえ、長居はしない方がいいだろう。星空を見上げながら熱いココアをゆっくりと飲み、ホッと一息吐いた。


「寒いだろうに、なんで外?」
「…リリーから聞かなかった? 風に当たりたかったの」
「ココアを飲みながら?」
「そう。暖かいんだか寒いんだか分からないこの感じがちょっと好きなの」
「風邪引く率100%だね」
「飲み終わったら戻るから大丈夫」

「よ、っと」と言いながら、リーマスは私の隣に座った。保温魔法もココアもないのに何をやっているんだ。私よりリーマスが風邪を引いてしまう。

何の躊躇いもなくココアが入ったマグカップを差し出した。「いいのかい?」と言うリーマスに二つ返事で答える。風邪を引いたら私のせいになるのだから、それだけは勘弁して欲しい。きっとまた「自寮の生徒だから放っておけない」とでも言い出すかもしれないのだ。ココアでも飲ませて口を塞いでしまおうではないか。

「………リーマス。聞いて欲しいことがあるの」
「何だい?」

ゆっくりゆっくり、言葉を紡ぎ出す。

緊張するのはほんの少しだけ。
「私ね、ジェームズに告白するよ」





暖かくて寒いこの場所は
暗過ぎてリーマスの顔がよく見えない



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