私の心に迷いなどはない。
言葉を伝えようとするのが恥ずかしくてたまらないのは何故なのか。すんなりと「好きです」と、伝えることが出来ればどんなによかったか。
私と言う意志が存在するせいで、こんなにも長い時間を使ってしまった。けれど、その時間が無駄だったとは決して思わない。この時間があったからこそ、ようやく言える勇気と言うものを手にすることが出来た気がするからだ。
「……大丈夫なのかい?」
「うん。自分でも驚くくらい冷静な感じ」
「そっか…」
「まあ、頑張って」と、そう言うリーマスはココアを飲み干してしまった。私が抗議すると「寒いんだから早く戻るよ?」と手を差し出した。こんなに寒いのによく指先を出せるものだ。
リーマスの手をとる。マグカップを持っていたからか、じんわりとあたたかい。
「リーマスの手、あたたかいね」
「心が冷たいって言いたいのかな?」
「いや。ただ、あたたかいなって思っただけ」
あたたかくて、縋りつきたくなる。
でも、逃げ回るのはもう終わりにするのだ。縋りつきたくなる思いを断ち切り、リーマスの手を離す。
繋がりが絶たれた瞬間、手のひらは冷たい風に晒される。もう一度あたたかさを取り戻したくなったけれど、それはしてはいけない。これ以上はただの甘えになってしまう。ぎゅっと拳を握ることで堪える。
「戻ろうか」
「そうだね。これ以上は風邪引いちゃいそうだし」
「全く。保温魔法早く覚えた方がいいよ」
「リーマスに言われたくないんだけど…」
まだ習得していないリーマスになんか言われたくない。何だかんだと練習をしているのに、成功出来ないのは何故なのか。確かに大事だし必要だとは思っているけれど、習得するのはもう少し先でも別に問題はない気がする。それは何故かって、何だかんだで私の隣には監督生のリーマスがいるんだし……。いや、早く覚えよう。
ほうっと息を吐き出す。白く見える息は一瞬にして消えてしまう。代わりに冷たい空気が肺に送られ、ぶるりと鳥肌が立つ。
冬ももう本番に入って来た。此処での寒さは舐めない方が身の為だ。早々に戻るとするか。
じゃりっと何処かで音がした。
次いで息を飲むようなハッとした声が聞こえ、私は顔を上げた。リーマスは何処かを見ていた。暗闇の中の一点を見つめている。うっすらと、ぼんやりとだけれど、何か見える。他に誰か来たのだろうか。よく見ようと一歩前に進む。リーマスの手が私を進ませまいと押しやる。どうしてそんなことをするのだろう。リーマスはそこまで警戒している様子はないと言うのに。
不意に暗闇の中の何かと目が合った。そこだけ光っているかのように、瞳だけよく見える。緑色の、綺麗な瞳だ。私と目が合って、そのまま視線を逸らそうとしない。目を見開き、徐々に潤みはじめていた。
どうして、泣きそうな顔をしているのか。別にあなたが悪いわけではないはずなのに。
徐々に暗闇に慣れ始めた目はそこにいる誰かを認識しはじめる。緑の瞳は伏せられ、堪え切れなくなったものが涙となって頬を濡らす。声をかけようと思った。伸ばした手はどうしようとしたのか、自分でも分からない。泣いているから、慰めようとしたのかもしれない。
伸ばした手が、届くことはなかった。届く前に、この場から去ってしまった。
心臓が今になってばくばくと大きく暴れ出す。
「…………………リリー……ッ」
お願いだから、泣かないで。
暗闇の中で見えた
緑色の、リリーの瞳
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