何故、今まで大丈夫だと思っていたのだろう。いつだってその可能性は充分にあったはずなのに。気付いていたはずなのに。私は、目を背けることで大丈夫だと過信していたのだ。そんなことなどあるはずは、ないのに。

きっと今頃、自分自身のことを責めているのだろう。心はズキズキと痛んだままだ。彼女には伝えないまま、終わらせようと考えていた。

時が経ってジェームズとリリーが付き合って、やがて結婚なんかもしちゃって、いつか懐かしむようにリリーにそっと話すんだ。「私、ジェームズのことが好きだったんだ」って。「ジェームズって学生時代はこうだったよね」なんて言い合いながら笑って、私は心からの笑顔でリリーに「おめでとう」と「お幸せに」って、伝えようと思っていたんだ。

「…どうして、上手くいかないんだろうね」

いつもいつも、私はタイミングが悪過ぎる。目の前が徐々に歪んでゆく。私には、涙を流す資格などない。最初からリリーに話をしていれば、何か変わっただろうか。

追いかけることなど私には出来ない。出来るとしたらそれはジェームズだ。リリーの為ならばきっとジェームズは何だってする。私は、リリーの為に何が出来るだろうか。


「なまえ」
「……馬鹿だよね私。分かっていたことなのに…」

何を言い訳染みたことをしているのだろうか。こんなことを言ったって、今更どうしようもないと言うのに。此処にリリーはいない。リーマスに言ったってリリーに伝わるわけではない。

どう、すればいいだろう。体が動かない。言葉が出てこない。リリーを追い掛けたとして、何を言えばいい?

「なまえ。怖がってちゃ駄目だ。きちんと向き合わなくちゃいけないよ」

私の肩を掴み、リーマスがそう言う。私の目を見てまっすぐに。逃げるなと、そう言われている気がした。私は、色々なことから逃げてばかりだ。ジェームズのこともリリーのことも、リーマスのことも。

逃げてしまうのはどうしてか。逃げ出してしまいたくなるのは、私が弱いからだろうか。否。私はただ、楽な方ばかりを選んでいるだけだ。私はまだ何も、選んでなどいないのだから。

「……迷惑かけてばかりだね、私」
「迷惑だなんて考えたことないよ。僕はただ、なまえに前に進んで欲しいだけだから」

「だからさ、行ってきなよ」と、私の背中を押す。リーマス。そんな風に言わないでよ。どうしてそんな、困ったような顔で言うのよ。前に進んで欲しいと言ったのはあなたなのだから。

私の心に勇気を灯してくれたのはあなたなのだから。


「リーマス。全部終わったらさ、リーマスに伝えたいことがあるんだ」
「………うん。待ってるよ」
「…ありがとう」

リーマスをその場に残して走り出す。きちんと「寒いんだから寮に戻った方がいいよ」と伝えてから。

リリーは今、何処にいるだろうか。きっと彼女のことだから、あそこにいるかもしれない。きっと。確証はないけれど、止まってなんていられない。

ちゃんと向き合わなくちゃいけない。リリーにちゃんと、話さなくちゃいけない。私が今、誰を想っているのか。逃げちゃいけないんだ。逃げ出したくなるような自分を奮い立たせ、寒い廊下をひたすら走る。

肌に突き刺さるような寒さで涙が出て来る。

誤解をしているリリーに伝えなくちゃいけない。
私が大好きなのは、さ………。





想い人を頭に浮かべて
もうジェームズではないんだと、伝えなくちゃいけない



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