泣かないで。
リリーが悪いわけではないのだから。

だからどうか、自分を責めたりしないで。


きっとあそこにいる。確証はないけれど、きっといる。無我夢中で走った。喉の奥が痛い。今は泣き言なんて言っていられない。リリーはきっと、もっと痛いんだ。

「廊下を走ってはいけない」と、廊下に飾ってある絵画に怒られるも、私の足はそんなことでは止まらない。どうしても止めたければマクゴナガル教授を呼んで来るべきだ。まあ、無理だとは思うけれど。

どのくらい走っただろうか。目的の場所へとたどり着き、荒々しい呼吸をどうにかしようと深呼吸をする。うっすらとかいた汗が冷たい空気に触れ、今は心地良い。胸に手を当ててから、目の前の扉を開けた。

「……やっぱり、此処にいたんだね…」

私に背を向け、しゃがみ込んで泣いている背中。赤毛がとっても綺麗で、けれど今はその輝きがないように思えた。そんな風にしてしまったのは、私なのか。

徐に振り返り、涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔を隠すこともなく、リリーは私の目をまっすぐと見つめている。

ごめんね、リリー。
本当にごめんなさい。

「ねえリリー、聞いて欲しいことがあるの」
「……なまえ、あなた、ずっと…」
「うん、そうだね。一年の頃から、ジェームズのことが好きだったの。でもね、今は違うんだよ」
「で、でもッ! あなたさっき言ってたじゃないッ。ポッターに告白するんだってッ!」

「何が違うのよ…?!」と私に突っかかってくるリリー。お願いリリー、ちゃんと聞いて。「……薄々、分かっていたのよ…」

そう切り出したリリーは眉をひそめた。やっぱり、バレちゃってたんだね。答えを求めるリリーに、私は慎重に言葉を紡ぐ。

「私ね、確かに告白するって言ったよ。でもね、それはちゃんと振られようって思ったからなんだ」
「そ、それはやっぱりポッターが…ッ!」
「確かにジェームズのことは好きだったよ。今はね、友達としてジェームズのことが大好きなんだ」
「……本当にそう思って言っているの…? もし、もし遠慮して言っていたとしたら私…ッ」
「リリー。この言葉は信じて欲しいな」
「私だって信じたいわよ! でも、なまえはいつだって自分の気持ちを隠そうとするじゃない! 今だってそうよ! どうして隠し事をするのよ?! 全部をさらけ出せとは言わないわ。でも、ポッターを好きって言う気持ちを私に隠して自分は身を引こうだなんて、何考えているのよッ!!」
「……リリー…」
「私は全然、嬉しくもないわよ……ッ!」

「私はずっと、なまえが話してくれるのをずっと待っていたの。でも、なまえは今まで何も言ってくれなかったわ…。そんなに私は信用出来ない?」
「違うよリリー。私はただ、リリーを傷付けないようにしたかっただけなの」
「でも、その方法が今私を傷付けているわ。私はこんなことじゃ傷付かない、大丈夫って、どうして思ってくれなかったの…? そう言う意味で、なまえは私を信じてくれなかったのと同じだわ」

リリーの言葉は重く、冷たく響いた。涙を流しながら、ちょっとだけ、私を睨んでいる。まるで軽蔑したとでも言うような表情だ。心がとても冷たく感じて、暖かさを忘れてしまったかのよう。

リリーの言葉は最もだ。どうして私は信じてあげられなかったのか。リリーは泣いてしまうと、どうしてそればかり思ってしまったのか。

勝手に思い込んで、勝手に人の感情さえ自分のことのように押しつけて、最低だ。気付いてからでは遅いんだ。


「なまえ。私はそんなに弱くはないわ。甘く見ないでちょうだい。……だから、もしポッターに振られて、その、泣きたくなったら、私が慰めてあげるわ…」
「……………え……?」
「友達だもの。信じてくれていなかったことにはショックだったけど、私を傷付けまいとしてくれたのよね? 空回りで終わったけども。相変わらず変なところで不器用なんだから」

意図的に、だろうか。

リリーはきっとまだ、怒っているのかもしれない。言葉が少々刺々しい。けれど、表情は先程と違って柔らかくなっている。安心したのか、私は込み上げてくる涙を止めることは出来なかった。

途端にリリーが淡々と慌て出した。私も私で必死に涙を止めようとするけれど、逆効果らしく、止まる気配がない。「全くもう。相変わらず泣き虫なんだから」と、リリーが優しく抱き締めてくれた。


「なまえ。どうして告白しようって思ったの?」

徐々に収まりつつある涙を拭っていた時、リリーから何気ない質問が飛んできた。

「別にもう本当に想っていないのだとしたら、告白なんてしなくてもいいんじゃない?」と。それと「告白したらしたで『僕告白されちゃったよ! どうしようかな!』なんて自慢してくるのが目に見えているわ。腹立たしい」と、先程まではなかったはずの黒いオーラがリリーの周りに浮かび上がっている。

確かに、ジェームズならそんなことを言って来そうだ。けれど、そういうことではないのだと首を横に振ってリリーに伝える。

「私の中にまだ残っている気持ちを終わらせたいから、かな。ちゃんと終わらせてあげないと次にいけない気がして」
「そっか。そうね。なまえらしいわ」
「あとね、リリーの前で言うのもどうかと思うんだけど、私がジェームズをそういう風に見ていたってことを知って欲しいって言うのもあるかな…」
「……宣戦布告に聞こえなくもないわね…。本当に気持ちを伝えるだけなのかしら?」
「それは本当だよ! だって、私……ッ!」

言葉を紡ぎ出そうとすると妙に恥ずかしくなり、茹で蛸のように顔に熱が集中して熱い。けれど此処は薄暗いから、きっとリリーには分からないだろう。

リリーは無闇に言葉の先を催促することはなく、口を閉ざして私の言葉を待ってくれている。きちんと伝えなくちゃいけない。リリーに、私の今の気持ちを伝えたい。

意を決して、それまで逸らしていた目線をリリーに合わせる。これから話す内容を伝えていないと言うのに、リリーも真剣な表情でいてくれている。もうそれだけで充分だ。


「あのね、リリー。私、私は……ッ」

心なしか、声が震えている。本人に伝えるよりも緊張しているんじゃないかってくらい緊張している。何処か裏返ったような気もする。それでもリリーは笑わずに、真剣に私の話を聞いてくれた。

一息吐いた後、リリーが口を開いたかと思えば「やっぱりそうなのね」と、抱き付いてきた。

私はゆっくりと頷いてみせる。

「なまえを見ていれば分かるわよ」
そう言いながら、リリーはふんわりと笑って見せた。





ぶつかりながら心を通わせて
そうすることで、私達はまた笑い合えた



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