「私達、お互いのことは気付いていたのね」

「おかしな話よね」と、リリーは笑いながら話す。もう先程までの微妙な空気など一切ない。私達は再び、いつもの調子を取り戻していった。

この際だからついでに話してしまおうと、私はリリーに「今は本当に二人が早くくっつかないかなってやきもきしているの」と、そう伝えれば、リリーは顔を真っ赤にして「からかうのは止めなさいよ!」といつもの調子で怒った。私はそれが嬉しくて、つい笑ってしまう。リリーも先程までの泣き顔とは違い、本当の笑顔を見せてくれている。

なんでもっと早くリリーに伝えることが出来なかったのか、今となっては不思議である。それほど私が臆病者だったと言うわけだ。

笑っているリリーを見て、少しだけ、ホッとした自分がいる。やっぱりリリーは笑顔が一番だ。


「リリーはさ、ジェームズのこと、好き?」
「な、何よ急に!」
「お願いリリー。正直に答えて。リリーはジェームズのこと、好き?」
「……正直なところ、まだ、よく分からないのよ」

そう話すリリーは少し顔を赤く染めながら、照れ隠しをするように急いで言葉を繋げていく。よく分からないと言いつつ、きっと自分の中で答えは出ているのだろうなと思った。

お返しと言うように、今度はリリーが「そう言うなまえはポッターのどう言うところを好きになったのよ?!」と、ものすごい顔で聞いてきた。私は素直にリリーに伝える。「明るくて楽しいことが大好きで、リリーのことを一途に想っているところ」と。

それからも、私達の会話は尽きることはない。ジェームズの何処が好きで何処が気にくわないのだとか、秀才であるのが嫌味ったらしくて嫌になるだとか。

リリーはやっぱり好きだと言い続けるジェームズのことが、どうしても信じられないみたいだった。信じてみようかと思った時は勿論あったそうだ。けれどセブルスに対して行う悪戯の度が過ぎていることが許せないらしい。そこのところが変わらない限り、リリーはジェームズをどう思うか今は考えられないと言う。


「ねえなまえ。ポッターは私が止めてって言っても止めてくれないわ。変わってくれるかしら?」
「ジェームズが変わろうとしない限り難しそうだね。でも、きっとジェームズのことだからリリーの考えていることに気付いてくれそうだよね」
「本当にそうかしら。いがみ合ってる二人が仲良く手を繋いでくれると思う?」
「……リリーの為に頑張ってくれるよ、きっと」

「とても想像は出来ないけれど」と、心の中で呟いた。だってあのジェームズとスネイプが仲良くしているだなんて、考えただけでも何かの天災の前触れだと疑ってしまう。リリーもリリーで「嬉しいけど、もしそんな日が来たら私、ポッターの心配をしてしまうわ」と言って除けた。スネイプの心配はないんだ。

考えた内容がどうにも可笑しくて、私達は顔を見合わせプッと吹き出した。遅れたように、リリーからくしゅっと可愛いくしゃみの音が聞こえた。大分身体が冷えてしまっただろう。二人して思い出したかのようにぶるりと震えた。

「寒いし、戻ろうか」
「そうね。まだお祝いもしているだろうから、ちょっとあたたかいものでも飲もっか」
「異議なーし」

震える身体を摩りながら、二人肩を並べて歩き出す。談話室に戻った際に、リーマスの姿を探す。

まだまだ生徒で溢れかえっていたけれど、早く見つかった。暖炉の側を陣取りながら、マグカップを手にしている。きっとホットチョコレートでも飲んでいるのだろう。戻っていてくれて良かったと、ホッと一息吐くと、隣にいたリリーが「早く行きなさいよ」と言いながら私の肩を押してくる。途端に顔に熱が集中し始める。

悔しかったので、リリーに「ジェームズの側、今なら空いているよ」と言ってみた。リリーも顔を赤毛並みに真っ赤に染め、慌てふためいている。可愛いなあ。

「ほら、さっさと行って来なさいなまえ!」と、少々強引に暖炉の方に押しやられた。人混みをかき分け、私だけポッと暖炉前のスペースに出て来てしまった。ホットチョコレートを飲んでいたリーマスと目が合ってしまう。リーマスは人混みの中にいるリリーと私を交互に見て、ふんわり笑って見せた。


「仲直り出来たんだね?」
「う、うん!」
「それじゃ、次はジェームズに告白だね」

リーマスは淡々と言ってのけた。

その言葉が至極冷たく感じて、私は無意識にリーマスを二度見する。普段のリーマスと何ら変わらないような気もするけれど、ほんの少しだけ、イライラしているようにも見えた。私達が戻るまでの間に何かあったのだろうか。

「リーマス、何かあった?」
「……大したことじゃないんだよ。ただ…」
「ただ?」
「シリウスがさっきまで五月蝿く騒いでいて……この騒ぎの中で一番五月蝿いんだ。少しは大人しくするように言ったんだけど無理そうだから寝る時にどうにかしようかなって」

どうにかって、どうなるんだろうシリウス。五体満足ではあるだろうけれど、何をされるのか考えるだけで恐ろしくなってきた。やっぱり、リーマスは怒らせない方がいいね。

そう言う割に、リーマスは何処か遠くを見ているような気がした。此処にいるのに、一体何処を見ているのか。笑う表情も何処となく、辛そうだった。何を考えてそんな表情をしているのか。

不意に目が合い、リーマスは誤魔化すかのように笑って見せたけれど、私の胸は締め付けられそうだった。此処はお祝いムードで周りはとても楽しそうだと言うのに、リーマスだけ、楽しむことが出来ていないようで私まで辛くなってくる。


「リーマス、楽しくない…?」
「え? 急にどうしたんだい?」

「なまえは変なことを言うね」と、また困ったかのように笑っている。どうしたのと聞きたいのはこっちのセリフだ。

談話室に戻って来てから、リーマスの様子がおかしい。否、本当はもっと前からだ。それこそ…。

「ねえリーマス」
「なんだい?」
「…私、リーマスが傍にいてくれてよかったって、思ってるの。だから、色々とありがとう」
「…何だかなまえらしくないね。一体どうしたの?」
「私らしくないってどういうこと? 人が素直にお礼を言ってるのに!」
「いや、ごめん。らしくないのは僕の方かな」
「それってどういう意味?」
「そのままの意味だよ。今の僕は、僕じゃない」
「何言ってるの。リーマスはリーマスだよ。らしいとからしくないとか、そんな言葉はいらないよ」
「それじゃ、何?」

「え?」
「僕は僕って、何? なまえは僕の何を知っているの?」

急にリーマスの口調が冷たくなった。なんで、どうして。私まだ、何も言っていない。それとももう、すでに何かやらかしてしまった? けれど此処で引き下がるわけにはいかない。もう一度、そう思っていたらリーマスは席を立った。「飲み物なくなっちゃったからもらってくるね」と、そう言いながら人混みの中へと行ってしまった。

何も声をかけることが出来なかった。初めてリーマスに拒絶をされた気がして、動くことが出来なかった。周りの声なんて聞こえない。聞こえない。どんなにそう思い込もうとしても、周りの楽しそうな笑い声が私を至極寂しくさせる。心に氷水を注ぎ込まれたようで、呼吸が上手く出来ない。

リーマスはどうしてあんなことを聞いて来たのだろう? どんな答えを返せば、リーマスを笑顔にすることが出来ただろうか。私はリーマスの中にある地雷を踏んでしまったのだ。

心の中にある鍵がガシャンと閉じられた音がした。

冷たい視線は私の知らない顔。
「待って」と、一声かければ、何か変わっていたのかもしれない。





笑い声の中で一人
永遠と何処を行くでもなく彷徨っている気分だ



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