「なまえ、どうかした?」
「え?」
「もう、さっきからボーっとしてる。大丈夫?」
「私、ボーっとしてた?」
「思いっきりね」
「まだ眠いからかな」
「朝からしゃんとしないと授業ついていけないわよ? ただでさえ宿題多いんだから」
「…お母さんみたい」
「眠気覚ましに一発お見舞いしてあげましょうか?」
「遠慮します!」
「なら早く食べなきゃ。授業遅れちゃうわ」
本当にボーっとしていたみたいで、さっきから食べていたパンが全然減っていないことにリリーに指摘されてようやく気付いた。リリーの平手か拳など味わいたくもない。さらりと怖いことを言うのだから勘弁して欲しい。
思い出したかのようにお腹が減った気がして、授業が始まるまでもうそんなに時間が残ってないので、急いでパンを口の中に押し込んだ。冷め切ってしまったコーンスープを飲み干し、リリーに「行こう」と告げようとした時だった。
「愛しのリリー。今日も一段と可愛いね」
ジェームズがやってきた。
言われた本人であるリリーは少し照れながらも「うるさいわよ!」と一喝。そんなのはいつも通りなジェームズはへこたれることはなく、満面の笑みを浮かべてリリーの手を取って手の甲にキスを落とした。はずだったのだが、リリーはその手でジェームズを力いっぱい殴ったので敢え無く失敗。
リリーは顔を真っ赤にして「何するのよ変態!」と言うと、私の手を引っ張って大広間を勢いよく出た。
手の甲にキスだなんて、まるで王子様がお姫様にやるみたい。リリーがお姫様でジェームズが王子様、か……。悔しいけれど、すごくお似合いだ。
リリーは真っ赤な顔をしながら「軽々しくやらないで欲しいわ」と言いつつも、満更嫌そうでもなかった。それを見て、また胸がチクリと痛んだ。
「リリー、大丈夫?」
「うん。なんとかね」
「嫌なのに大変だね」
「え、ええ。本当よね。迷惑だわ」
またチクリと胸が痛む。
私は何を言っているのだろう。こんな風にリリーを追い詰めたいわけではない。二人にはさっさと上手くいって欲しいのだ。
そうじゃないと私は……私は、何だと言うのか。今私は何を思ったのか。そうじゃないと私は、ジェームズに告白してしまう…?
いやいや、告白なんてするつもりはない。私は密かに想いを寄せているだけでいいのだ。告白してみんなとの仲が悪くなって、側でジェームズが見られなくなるなんてそんなのは嫌だ。だから私は言うつもりはない。リリーの邪魔をするつもりも、ない。
けれど、本当にそうだろうかと考えてしまう。本当はどうしたいのかなど、叶うはずがないのに。頭の中の想像が悪足掻きをする。
「ちょっと待って」
「ルーピン?」
後ろを振り返ると、そこには一人でいるリーマスがいた。他の三人は見当たらず、ジェームズがいない。珍しいこともあるんだなあと思ったけど、もしかしたらさっきのリリーの拳でまだダウンしているのかもしれない。
予想は当たったらしく、リーマスが「ジェームズはまだ起きて来ないから安心して」とリリーに伝えた。
「さっきので杖落としたよ」
「え、嘘! ありがとうルーピン!」
「リリー。もう少し杖を大切にしないと。リーマスが拾ってくれたからよかったけど」
「なまえ。そうね、これからは気を付けるわ」
「ジェームズに取られたら一間の終わりだよ?」
「う、それだけは本当に嫌だわ…」
「それじゃ、僕はここで失礼するよ」
「ルーピン、本当にありがとう」
「どう致しまして」
きっとジェームズがまだ大広間にいるのか、リーマスは大広間の方へ戻って行った。
リーマスはリリーと話していたはずなのに、何故か終始私を見ていた。もしかしてまた新しい悪戯を考えて今すぐ教えたいけれど監督生と言う立場と、目の前には同じ監督生のリリーがいるから控えたのだろうか。後で聞いてこよう。
「朝から散々だわ」
「リリー」
「なあに?」
「朝から散々だったような顔には見えないけど?」
「そ、それはなまえがいてくれてるからよ!」
「そう? それは嬉しいな」
にっこり笑えば、リリーも笑顔で返してくれる。リリーの笑顔はあたたかいお日様のようで、リリーが笑ってくれると安心する。リリーから笑顔が消えてしまったら、例のあの人がホグワーツに攻めて来るんじゃないかと言うくらい大事だ。
リリーはきっとジェームズが気になると言うよりも、もう好きになりかけているのではないかと思う。今まで数々のアプローチを断り、尚且つ今日のような暴力沙汰も度々だ。
それに毎回「好き」だの「愛してる」だの言われていると、本当はからかっているだけなのではないかと言う気もする。だからリリーはジェームズが本気で言って来ているのか分からないのかもしれない。まあ、無理もないと思うけど。正直、そんなリリーは羨ましい。
「リリー。聞いて」
「どうしたのよ。改まって」
「ジェームズは冗談なんかでリリーに好きとか愛してるって言っているわけじゃないと思うんだ。本当に心の底からリリーを想って言っているんだよ。だからそのまっすぐな気持ちをリリーもただ流すだけじゃなくて、ちゃんと聞いてあげて欲しい」
「……なまえ…」
「っと、授業遅れちゃうから急ごっか」
「ええ、そうね」
やっぱり、リリーに悲しい顔なんてして欲しくない。意地悪なことはもうやめよう。例えジェームズが好きで想いが伝わらなくても、リリーに当たるのは間違っている。
その気持ちはとことん悪戯で発散させてしまおうと考えた。そうだ、そうするのが一番良い。リリーはやっぱり笑顔が似合うから、だから私は想うだけにするのをやめなきゃいけない。
蓋をして出て来ないように、この想いを終わらせなくちゃいけない。そうしないと、またいつリリーを傷付けるか分からない。
でも、格好良いと思ったりするのは仕方ないよね。
少しずつ、少しずつ終わらせていこう。
さようなら、ジェームズ。
キミへの想いを
終わらせるのが一番いいんだ
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