至極寒い。もう少しあたたかい格好をして来ればよかったと後悔した。リーマスはバッチリ防寒をしているけれど鼻が少し赤い為、あんなに着込んでいても寒いのかもしれない。息を吸うたびに鼻が痛くて仕方がない。だけどそれよりも、そんなことよりも、私は未だに繋がれているリーマスの手を振り解けずにいる。振り解こうとどんなに頑張っても、リーマスに笑われるだけだった。
「離して」と訴えてもリーマスは「手を繋いでいても転びそうなんだから離すに離せないよ」と、ちょっと口端を上げてそう言った。何だか馬鹿にされている感が否めない。これ以上は体力の無駄だと判断し、大人しく繋がれることにした。
私達はリリー達から見えそうで見えない距離感を保ちながら、リリーとジェームズの行く末を見守る。
尾行しているのは悪いとは思っている。後を付けるのも何だか気が進まないのだけど、手を振り解くことが出来ずにいるから仕方がないと自分に言い聞かせた。
それに二人の様子が気にならないと言えば嘘になる。気になるから、多少はその気があるから私はリーマスの手を振り解くことが出来ないのかもしれない。
二人は相変わらず微妙な距離を保ちつつ、ジェームズがオーバーリアクションでリリーと話しているのが窺える。この距離からではリリーがなんて返しているか分からないし、後姿なのもあって表情も見えない。
けれど、ジェームズはすごく楽しそうだ。リリーと二人っきりでいることに興奮しているのか、はたまた自分の言葉にリリーがまともに返してくれているからなのか詳細は分からない。
「此処からじゃよく分からないからもう少し近付いてみようか?」
「え、でもそんなことしたら…」
「大丈夫」
その「大丈夫」と言う自信は一体何処から来るのか、リーマスはにっこり笑って見せた。
繋いだ手を引っ張られ、段々近付く二人の姿。そうすると自然と二人の会話も聞こえてくる。楽しそうなジェームズと、照れ隠しで少しツンツンしながらも満更でもないリリー。
ああ、嫌だ。
胸の辺りにズキズキと突き刺すような痛みが走り、無意識に呼吸も荒くなる。この光景を私は自分で望んでいたはずなのに、見ていたくなかった。リーマスに引っ張られながら、私は俯いた。
リーマスは意地悪だ。
私の気持ちを知っていながらこんなことをするなんて。もう見ていなくても二人は大丈夫だって分かりきっているのに。
二人が気になるけど、それで自分が傷付くことになるだなんて分かっていたことなのに。見ていない方が、知らない方が傷付かなくて済むのに。
心の何処かでまだ望みはあるんじゃないかと思ってしまう私は、本当にどうしようもなく狡い。「リリーとジェームズが大喧嘩してしまえばいい」だなんて、何を望んでいるのか。
心の何処かでジェームズがリリーを諦めないかなと、そう願っている私がいる。そんなこと起きるわけがないのに、私はまだ望みはあると期待している。
もういっそのこと、潔く振られてしまえばこんなことを思わなくて済むのかもしれない。でも、告白するなんて。そんなこと、出来るわけがない。
「ずっとつけてるのも寒いし、バタービールでも飲みに行かない?」
「え?」
「さっきからなまえ、寒そうだからね」
「飲んでる時に鉢合わせしたらどうするのよ」
「そこはまあ、ジェームズが何とかしてくれるさ」
また、ジェームズだ。
なんで毎回毎回ジェームズなんだ。ジェームズが何だって言うのだ。リリーと一緒にいるジェームズが何をしてくれると言うのか。
リーマスは何故そんなにも私を傷付けるのか。無意識だとしたら質が悪い。何が楽しいのかまるっきり理解出来ないし、したくない。
ジロリと睨み付ければ、またさっきみたいににっこり笑ったままリーマスは答えない。何だと言うのだ本当に。
「………楽しい? リーマス」
「え?」
「人が傷付くの見て、そんなに楽しい?」
「なまえ? それどうい、」
「帰るッ!」
「ちょっと待って!」
リーマスの制止も聞かずに、私はホグワーツまで走った。雪のせいで視界が悪くて降り積もった雪に足をとられながらも、不格好な走り方になっていることも気にせず走った。
計画を立てたのは私だ。その私がリーマスに対して怒るだなんてどうかしている。私が言い出したことなのに、それを全部リーマスにぶつけた。
もしかしたらリーマスは何も知らないのかもしれない。知らなくてあの態度をとっているのだとしても、私は今の自分の気持ちをリーマスにぶつけてはいけなかった。
優柔不断な私がいけないのだ。先に進もうとしないのが悪いのだ。このままみんなと仲良くしていきたいと願い、踏み出す勇気を持てない私自身のせいなのだ。本当に、どうかしている。
「あっ」と声を出すよりも先に、雪で足を滑らせた私はそのまま倒れた。本当に、ついていない。立ち上がってまた走り出すのも面倒くさくて、私は起き上がってその場に座り込んだ。
しんしんと降り積もる雪は冷たいはずなのに何故かあたたかくて、倒れた時何処も打っていないのに涙が滲んできた。傷はないのにとても痛い。痛くてたまらない。
視界の端に、リリーとジェームズが見えた。私からは見えるけれど二人からは分からないようで、私に気付かずに三本の箒を目指しているようだ。最初見たようなぎこちない感じではなくて、まるで最初から二人でいることが当たり前みたいに見ていて違和感はなかった。
と言うことはこの計画は成功だ。きっとジェームズが帰って来たら興奮しながらリリーとのデートを熱く語るのだろう。容易に想像することが出来る。
想像の中で喜ぶジェームズを見ながら、素直に喜べない私がいた。諦めるなんて、そんな簡単に出来はしないのだ。
雪に埋もれて、このままいなくなりたい。
このまま私を消して欲しい。
堪えきれなくなった涙が零れた。
降り積もる雪の中で
このまま静かに溶けてしまいたい
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