何秒、何分くらいこの場にいたのだろう。一時間もいなかっただろうけど、結構いたのかもしれない。
私の足は雪で真っ白になっていた。冷たいとか熱いとか、あんまりよく分からない。もう少ししたら寮に戻った方がいいのかもしれない。そうでないと凍傷になる恐れがある。今のところ大丈夫そうだけど、手先が冷たいことに変わりはない。ひんやりとした空気だからか、冷静に物事を判断することが出来る。
リーマスは今頃どうしているのだろう。「仕方ないなあ」なんて思いながらも、探してくれていたりするのだろうか。それとも急に怒った私に呆れて、三本の箒でバタービールでも飲んでいるだろうか。
でもきっとリーマスのことだから、ハニーデュークスでチョコレートの買い溜めとかしているのかもしれない。リーマスは怒っているだろうか。もし怒っていたらちゃんと謝ろう。
ようやく涙もとまり静かに降り積もる雪を眺めていたら、ざくざくと足音が聞こえてきた。
きっとホグズミードから帰る人達だろうと、私はそれほど気にせず雪を見続けた。座り込んでいる私は、きっと何をやっているのだろうと不審に思われているだろうけど気にしない。
ああ、でも私って今雪まみれで真っ白だからもしかして大きな雪の塊に見えているかもしれない。それに動かないのではなく、動けないが正しい。寒さで身体が悴んで立ち上がれない、が正しい。
まあその内何とかなるだろうと思っていたら、私のすぐ後ろで足音は止まった。誰だろうと気にはなったけれど振り向くのが面倒だった。そのまま私が動かないのを見て、足音はまた動き出した。私の後ろから、前へ。ゆるゆると顔を上げる前にその人はしゃがみこんで、私の顔を見るなり安心したかのように目を細めた。
なんでそんな顔をするのか分からない。そんな風に、綺麗に笑わないで。私の上に積もった雪を払って、優しく頭を撫でないで。「すごく冷えちゃってるね」なんて言いながら、私のほっぺに触らないで。
「なまえ」って、私の名前を呼ばないで。
「ずっと此処にいたの?」
「…」
「寒くない?」
「…」
「こんな所にいたら風邪引いちゃうよ?」
「…」
「バタービールでも飲みに行かない?」
「…」
「なまえ、ホグワーツに帰ろう?」
その問いに、私は頷いて答えた。頷くと言う少しの動作で身体は感覚を取り戻したみたいで、急に寒いと感じた。ぶるりと意思とは関係なく身体が震える。
「チョコレート食べたらあったかくなるよ」
スッと差し出されたのは、一つ一つ銀紙で包装された小粒のチョコレート。リーマスがいつも持っている甘いチョコレート。溶けないように、魔法がかかっているチョコレート。
いつも命より大事だと言っていたチョコレートをもらってもいいのだろうか。目線をリーマスに合わせると言いたいことが分かったのか「食べていいよ」と、やわらかく笑った。
寒さで上手く動かない手で何とか一粒取り、チョコレートを口に放り込む。寒さで固くなっているはずなのに、口に入れた瞬間ほろりと蕩けた。ちょっとあたたかいそれは、まるでホットチョコレートを飲んでいる気分だった。
「ね、あったかくなったでしょ?」
「………うん」
凍っていた心が、リーマスのチョコレートで溶けてゆく。身体は寒いのに、心はすごくあたたかかった。
だけど、ねえ、リーマス。
そんな優しい笑顔で笑わないで。
ジェームズのことを好きな自分を、あれほど大好きでリリーに嫉妬していた自分が馬鹿みたいって思っちゃうくらい、リーマスの笑顔にドキッとした。
なんでこんなにもドキドキしているのか、自分でも分からない。きっと弱っている時だったからだ。だからリーマスの優しさが身に染みてドキドキしたのだ。ただ、それだけだ。
でもせっかくだから、チョコレートをもう一つ。
来てくれてありがとう、リーマス。
ジェームズのこと、そんなに考えなかった。
チョコレートの魔法
甘くてあたたかくて、少しだけ元気が出た
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