私の想像通り、ホグズミードから帰って来たジェームズは興奮しながらリリーとのデートを熱く語ったらしい。夜通しで。
シリウスは親友の喜びように最初こそ嬉しかったが、リリーが如何に可愛いかを延々と聞かされて耳にタコが出来たようだ。調子に乗らせるんじゃなかったと、念仏のようにジェームズの言葉がこだましているらしい耳を抑えながら後悔していた。ピーターは眠くて眠くて何度もこっくりと船を漕いだのだが、それをジェームズが許さなかったらしく、お陰で一夜明けてからの授業内容はほとんど覚えていない。宿題が出ていると言うのに何が出たのかさっぱりな彼は、顔面蒼白でシリウスに縋っていた。
リーマスはと言うと、一日中笑顔を貼り付け黒いオーラを出していた。何度も何度もジェームズを静かにさせようと試みたものの、どれも失敗に終わったことが原因なのではないかと同室の二人は語った。
一睡も出来なかったリーマスの機嫌は最悪で、誰かが声をかけようならば視線で殺せるのではないかとピーターが酷く怯えていた。
あのホグズミードからジェームズは浮かれていて、何もかもが上手くいっていると喜んでいた。
リリーは「調子に乗っててウザイ」と口ではそう言っているものの、いつもの殴る蹴るがそんなに強くない気がする。まあセクハラ紛いのことをされたらリリーさん容赦無いんだけど。
ジェームズが嬉しそうなのは相変わらずイライラしてしまうけれど、前ほどではなくなっていた。リリーと上手くいっているのを見ると、微笑ましくて自然と笑えていたりする。これは良い傾向だ。
このままいけば、その内二人を見ていても何とも思わなくなり、心の底から「お幸せに」と祝福の言葉を伝えることが出来るかもしれない。ジェームズに対する想いが消えたわけではないけれど、今の私は二人を見ていて「早くくっつかないかな」と呑気に思うことも出来る。二人にとって、私にとっても喜ばしいものだ。
けれど、今現在の時点で一つ、問題が発生している。
「なまえ。今日こそ白状なさいよ」
「リリー。だから違うって何度も言ってるでしょ?」
「いくら恥ずかしいからってそんなに否定することないじゃない」
「恥ずかしいとかそういう問題じゃなくて」
「そんなに否定してたらルーピンが可哀想じゃない」
「可哀想でいいんじゃないかな。意地悪なんだし」
「もう。ルーピンと付き合っているんでしょ?」
「………付き合ってないってば…」
いつの間にかリリーの中で「私とリーマスは付き合っている」と言うことにされていた。
何処からそんな噂話が広まったんだとシリウスに問い詰めたところ、何でも「私とリーマスが一緒にホグズミードにいるのを他の生徒が見た」と言うのだ。一緒にいたから何なんだ。一緒にいたくらいでみんながみんなそうなら、世の中カップルだらけじゃないか。
けれどその噂話を広めたのはジェームズだとシリウスがそう言った。「何故?」と聞くとあの日リリーが私を追いかけようと寮に戻ろうとして、ジェームズは咄嗟に「なまえならリーマスと一緒に行くみたいだからいないよ」と、リリーにそう言ったらしい。「友達の恋を応援しようよ」と言われ、リリーは渋々それを快諾したのだと言う。
「なんで、こんなことになったんだろ」
「ジェームズの考えることは僕にも分からないよ」
「私に近付かないで。リリーがまた誤解する」
気を利かしたのか、リリーはもう私の隣にはいなかった。代わりに今一番会いたくないリーマスが隣に座り、朝から甘いものを摂取している。
「そういうことにしておけばいいんじゃないかな」
「私は嫌。リーマスは嫌じゃないの? 噂話」
「噂は噂なんだから気にしなくていいと思うけどね」
「私はそんなに簡単に割り切れないの」
「なまえって案外真面目だからね」
「案外って何よ」
「ちゃんと知ってるよって言っただけだよ」
「なら、今私が食べたいものは何?」
「糖蜜パイでしょ」
「…飲み物は?」
「コーヒーだね。角砂糖が二つでミルクなしの」
「ストーカー。ちょっと引いた」
「酷いなあ。いつも隣で食べてるんだからそれくらい分かるよ」
そう、だっただろうか。
ああ、そうか。いつもジェームズしか見ていなかったから、周りなんて見えてなかったも同然なのだ。私が見ていた景色は、酷く曖昧で小さなものだったのだと気付いた。
「なまえはずっと、ジェームズしか見ていなかったからね」
ああ、やっぱり。
リーマスは気付いていたのだ。
言わない辺りが優しそうに見えて、逆に意地悪だよ。
まるでお伽噺の
悪役みたいなリーマスは、今何を考えているの?
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