つまり、私は裸だったのか…。
寝ていたとは言え、クロウが目隠しの布のようなものを付けているとは言え、羞恥心はなくならない。気不味いけれど一応お礼を言うと「ヨカッター」と嬉しそうだ。
クロウの呼び方だけれど、さん付けをしたら「…クロウだヨ……?」と首を傾げて言うものだから、そう呼ばせてもらうことにした。正直に言って、私自身もクロウにさん付けは違和感を覚える。初めて会うはずなのに妙に余所余所しいと言うか、変な感じだった。敬語も可笑しな感じがするものだから、とってしまった。それについては特に何も言ってきていないから良しとしよう。
「ところでお主、何故泣いたりなどしたのだ?」
「え、えと…」
だって、迎えに来るのが白くて大きなライオンだとは誰も思わないじゃない。
クロウは普通に「僕の友達のレオンだヨー」なんて嬉しそうに言うし、紹介されたレオンは「余は百獣の王である! 恐れおののくがいい!」なんて大きな口を開けて言うし、食われるかと思ったわ。
レオンはホワイトライオンなるものではなく、正確にはマンティコアと言う幻獣らしい。まあ確かに角もあるし翼もあるし、ライオンとはまた違った尻尾が生えているし。うん、よく分からないや。
「兄貴に報告しなくては!」と急かすレオン。翼は飾りではなく本当に飛べるらしい。早く乗れと言っている。クロウは背中に背負っていた鞄から輪っかを取り出し、自分の足に取り付け始めた。え、何それ。
聞くとカカシである自分は軽いから浮いてしまうのだと言う。「コレがあれば大丈夫なんだヨー」と何だか得意気だ。
クロウと一緒にレオンの背中に乗り、空へと飛び立つ。ブワッと体に風を受け、おしりが浮いた。「え、ちょ、待って待ってッ!」
グイッと私の体を引っ張り、両腕で飛ばされないようにクロウが固定してくれた。のだけど、あなた、え、ちょ、腕の関節どうなっているの……ッ。カカシだから? カカシだからなの? 中身は単なる藁だからそんなにもぐにゃっと(どうしても人間の体で考えちゃうから、少し気持ち悪い)曲がるものなの?
………あまり考えないようにしよう。
怖くてクロウにずっとしがみつきっぱなしの目を瞑りっぱなしだったからか、意外と早く目的地に着いた気がしなくもない。まだちょっとふわふわした感覚が抜けないけれど、ようやく地に足がついた。
目の前には大きな建物が聳え立っている。
何処かで見たことがあるような、ないような、不思議な感じがする。誰かに呼ばれている気がして振り返るけれど、誰もいない。
建物の中を進み、ずり落ちそうになる毛布を必死に抑える。引き摺ってしまっているけれど、裸を晒したくはない。
ある程度まで進んで客間であろう部屋に着いた時、私が着られる服はないかと聞いてみた。流石にずっとこのままは嫌だし。
「兄貴は寛大だからな! 服の一着や二着くれると思うぞ!」
「いや、とりあえず一着貸してもらえればいいんだけど」
「遠慮することなんてないんだぞ?」
グイグイと押し気味のレオンに負け、一着貰うことにした。先程から兄貴兄貴って、何だかヤのつく人のことを言っているみたいで落ち着かない。この大きな幻獣(ライオンみたいだけど)の兄貴分ってどんな人なんだろう。そもそも人かどうか怪しい。
二人(この場合は一体と一匹かな)に部屋を出てもらい、着替えるべくクローゼットを開ける。中には様々な洋服が入っていて、私が着られそうなサイズのものを探す。あった。
白いブラウスにワインレッドの紐状のリボンに、これまたワインレッドのジャンパードレス。靴は踵が特殊なブーツ。ちょっと可愛い過ぎるかもしれないけれど、これが一番マシかな。他のはフリルが凄かったから、ね。
「お待たせ」
「ワァ、よく似合っているヨ!」
「……クロウの言う通りだな」
「ありがとう」
それからレオンは「兄貴を呼んでくる! よいか、決して此処から動くでないぞ? よいな?」と二度も念を押して兄貴なるものを呼びに行ってしまった。隣にいるクロウは私を見て、先程から首を傾げている。やっぱり似合わないのかな。
「……やっぱり、変、かな…」
「ウン? 変って何ガ?」
「この服、やっぱり私にはちょっと可愛い過ぎたかな?」
「ボク、そう言うノよく分からナイけど、キミにピッタリだと思うヨ?」
「……そっか、ありがと」
「でもネ、キミを見てまたドロシーかと思っちゃったんダ」
「…ドロ、シー……?」
「ボクってばおかしくナっちゃったのカナ?」
あまり困ったように聞こえないその声に、何かが頭を過ぎった。
この感覚はなんだろう。
懐かしいような、寂しいような、泣きたくてたまらない。お腹の中でぐるぐると気持ちの悪いものが渦巻いているようで、吐き気がする。様子のおかしくなった私を見て、クロウが何か言っている。けれど吐き気を抑えるのにいっぱいいっぱいで、クロウの言葉は頭の中に入ってこない。
自分でも分からない状況に怖くなり、逃げるように走った。
香らぬ風は君に似ている
知らない、知らない、こんな感情、私は知るはずがない。