「あれほど動くなと言ったであろう! 何故動いたのだ?!」

副音声で吠えられた気がした。

「これだから子どもは落ち着きがないのだ。余のように早く大人になるが良い!」

いや、私はもう大人に成りかけているから。大人の階段登っている最中だから。

しかしどんなに講義をしても「お主はまだ小さいではないか」と言われる始末。そりゃあなたに比べると私は小さいかもしれないけれどさ。クロウだって随分と背が高い。やっぱりカカシだからか。

レオンのもふもふとした毛を掴んで大人だと講義しても無駄だった。それにしてもなんだこの毛は……ッ! けしからんッ!


あの後、私とクロウを探しに来たレオンに見つけてもらった。見つかった時すごい顔をしていたから捕食されるかと思ったけど。

レオンがやめろとも言わないのでそのままもふもふを撫で回して堪能していると、視線を感じた。顔を上げると何も言わず、ただジィっと見つめてくるクロウ。レオンの代わりにクロウが怒るのかとおっかなびっくり「何?」と聞くと「ボクのコトも触っていいんだヨ?」と膝を曲げてしゃがんだ。

「………え、え…?」
「遠慮しないデ、触ってヨ」

両手を広げ、おいでのポーズのまま動かない。このカカシ、まさかレオンばっかりズルイとでも思っていたりするのだろうか。カカシなのに? ああでもそうか。カカシは本来畑にいて、鳥を寄せ付けない為に存在しているから、もしかしたらあまり触ってもらったことないのかな。

そう考えたら妙に納得する自分がいて、恐る恐る手を伸ばす(と言うのも此処まで来るのに腕がおかしな曲がり方をしたのでちょっと怖かったりするのである)。

カカシって聞いていたから藁の感触がするのかと思いきや、何か、ぐにょぐにょする。人間やカカシでは絶対にありえない触り心地だ。どうやって動いているのか本当に謎だ。

気のせいだと思いたいけれど、こうして触れているとよく分かる。会ったことがあるんだ。クロウにも、レオンにも。

俯き胸に手を当て、目を瞑る。そうやったって簡単に思い出せるはずもないと分かってはいるけれど、喉まで出掛かっているこの感覚がもどかしくて仕方がない。


不意にポンッと頭に何か乗っかった。
顔を上げると目の前にクロウがいて、何やら私の髪を弄っている。え、何しているの。「ちょっとジッとしててネ」

慣れた手付きでちゃちゃっと私の髪を操り、二本の三つ編みが完成した。三つ編みの終わりには何処から持ってきたのか、これまたワインレッドのリボンが結んである。

「ウン! 綺麗に出来タ!」
「クロウはとっても器用なんだね」
「包丁ノ扱いも得意ダヨ」

あ、腰にぶら下げているのやっぱり包丁だったんだ。見せなくていいからね。危ないからやめてね。包丁の扱いが上手いのは分かったからさ。


「ア、そうダ」

クロウがごそごそと鞄を漁り始めた。今度は一体何。鞄から一冊の本を取り出して「忘れてタんだけどネ、キミ、このお花持っテたんだヨ」

それは薄紫色の花で………

「………菫…」
「このお花、スミレって言うノ?」
「うん。私の大好きな花なの」
「キミの名前、スミレにしようヨ!」
「え? いいけど……どうしてか聞いてもいい?」
「ンー、大好きなお花でショ?」

「あとネ、キミに似て可愛いヨ。スミレ」
何の恥ずかしげもなく言うクロウに反して、私は俯いて顔を隠すことしか出来なかった。





幻影に写った嘆きに似て
優しくしないでいいよ、君が近付くたびに辛いから。

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