きらきらと夏目くんの額で、汗が光を反射して輝いている。彼が珍しく汗をかいているのは、ここが学院内の片隅にある倉庫だからだ。さすがの夢ノ咲学院も、倉庫にまでエアコンは付いていないらしく、秋口とはいえ蒸し暑い。更に言うと、体が熱くなるようなことをしているのだから汗が出るのも当たり前だ。
そもそもわたしは夏目くんと一緒にライブで使う小道具の確認に来ただけのはずなのに、気がついたらこんなことになっていた。
せっかく二人きりなのだから、とキスを始めたのはどちらからだったか。ちゅっちゅっ、と軽いキスはどんどん深くなって、止まらなくなっていった。そうしてわたしたちは、あっさり快楽に身を任せたのだった。

「なまえ、何考えてるノ」
「ぅ、ん……っ、も、あつい……」

わたしの上に覆い被さって、あちらこちらに手を滑らせる夏目くんはニタリと笑う。少し意地悪にも見えるし、大人びても見える顔だ。

「確かに汗ばんでるネ。でも、こんなのまだまだでショ」
「あっ……!やだ、舐めないで、きたな、いぃ……」
「いつももっと汗びっしょりになってるの、知らないのかナ?」

知らない、と必死に答える間も、夏目くんはわたしのじっとりとした肌に舌を這わせる。夏目くんの舌はぬるぬるして、生き物みたいに動き回ってわたしの皮膚を刺激する。わざとちゅうちゅう音を立てたりするところがいやらしい。
汗が舐められてる、そう思うと余計に恥ずかしくてまた体が熱くなった。あつくて、きもちよくて、どんどん頭がぼーっとしてくる。

「きたない、から……っ、やめ、」
「フフフ、なまえはまだわかってないのかナ?ボクはなまえの全てが愛しいんだヨ。もちろん汗だって例外じゃあ無イ」
「な、なつめ、くん」
「なまえ、好きだよ」

夏目くんはそう言うと、汗でおでこに張り付いたわたしの前髪を優しく手で整えてくれた。柔らかく微笑むその表情は、すでに溶けかけた脳みそを完全にどろどろと溶かしてしまう。
わたしの頭の中はもう、夏目くん好き、という単純な考えで埋め尽くされてしまった。もしかしたらわたしは前に夏目くんが言っていた、魔法とやらにかかっているのかもしれない。夏目くんはとろとろとろけたわたしの目を見て、良い子だネ、と呟いた。

「じゃあ、このままここでたくさん汗をかきながらエッチなことしようネ」

こくりと頷くわたしに、夏目くんは満足そうに笑った。遠くで昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえる。先生に、クラスのみんなに怒られちゃうかもしれないけれど、今はとにかく夏目くんのことしか考えられない。
ぎゅうっと夏目くんの背中に抱きつくと、夏目くんからも少しだけ汗のにおいがした。
うん、確かにわたしも夏目くんの汗も何もかもが、愛おしい。



20170909
ひなこさんより「こんなのまだまだでショ」