ちゅっ、ちゅっ、とかわいらしいリップ音が泉のシンプルな部屋に響いていた。無音の部屋にはその音だけが延々と響き渡る。しかしそれは少しずつ、男女の荒い息遣いとくちゅくちゅといやらしい唾液の音へと変わっていった。
泉はなまえの頭を片手で抑えて、逃さないようにと何度も何度もその唇にかぶりつく。舌がぬるぬる動き回って、なまえの口の中を味わい尽くしていった。
ぴくぴくと小さく反応するなまえの体が愛おしくて、泉のキスはどんどんと深くなっていく。

「……はぁっ、せんぱ、も、行かな、んんっ」

ずいぶん長い間二人はそうしていたようで、なまえの唇も泉の唇もお互いの唾液でべたべたと汚れていた。
なまえがキスの合間に息を切らしながら言葉を紡ぐが、泉はすぐにまた唇を塞いでしまう。そして先ほどのなまえの言葉が気に入らなかったらしく、少し眉をひそめキスをしたままずるずるとなまえをその場に押し倒した。

「ふぁ……せんぱい、わたし、かえらないと……」
「逃すわけないでしょぉ?覚悟しなよ」
「ぁ、う……でも、バスの、じかん……」
「大体さぁ、アンタ自分がどんな顔してるかわかってるワケ?」

「かお?」と呟いて両手で自分の頬に触れるなまえの顔は、すっかり上気して赤く染まっていた。目はとろんととろけ、口は半開き、完全に発情した顔をしている。
その顔を少しイラついたように、熱のこもった目で泉は見つめていた。

「そんな顔で帰るのなんて許さないから。……帰りは、バイクで送ってくから、」

だから、と続ける泉はなまえの唇を指でするするとなぞっていく。たくさんのキスで少しだけぽってりと腫れて、赤く色づくかわいらしい唇だ。泉の部屋を訪れる前に塗ったお気に入りのリップクリームは、もうすっかり取れてしまっている。

「だから、さぁ……もっとキス、させなよ」

ごくり、となまえが喉を鳴らすのと、泉が再びなまえの唇に噛み付くのはほとんど同時だった。
柔らかい唇が重なって、熱い舌が絡まり合う。お互いの境目がわからなくなるくらいに絡まり合って、唾液が混ざり合っていく。
時々唇を離して息継ぎするときには、愛おしそうに名前を呼んで、またすぐに唇を重ね合った。
この時間が永遠に続くかのように思えるくらい、部屋の中は甘ったるく幸せな空気に包まれていた。



20170919
ミアさんより「逃がすわけないでしょ?覚悟しなよ」