仲間だった。彼らと私は仲間であった。
「嘘、だよな……。お前が裏切るなんて、嘘に決まっているよな!?」
かつての私の主は掠れ気味の声で私に問い掛ける。私はかつての主を見つめ、ただ静かに首を横に振った。
「もう、何もかも遅いのです」
そう言って武器を構える自らの手は、微かに震えていて、とても惨めで情けないものだった。ああ、覚悟を決めたはずなのに、私はとても弱い。
だがもう決めたことだ。主の元へは、私を慕ってくれた優しい仲間達の元へは二度と帰ることはない。
剣の柄を強く、強く握る。そうしなければ、私はこの剣を放り投げてしまいそうになるのだ。
「我が主、貴方の命にはもう従わない」
剣先を向ける先には、まだ幼さが抜けきれていない青年が、裏切り者の部下に剣先を向けている。
今にも泣き出してしまいそうな彼は、とても苦しそうに笑っていた。
「残念だ」
「ええ、本当に」
私の返答を聞いたあと、主は剣を構えて私へと向かって来る。私はそれを受け止め、主の剣を弾いた。
こうして彼と向き合っている時間が、とても惜しいと思う。それと同時に、終らせなければならないという気持ちも心の奥底にあった。
「これで、終わりです」
か細い震えた声が、喉に何度も引っ掛かりながら出ていく。そして、その声に何かを察したかつての主は、大きく目を見開いて、すぐさま自分の剣を投げ捨てて私に駆け寄ろうとした。まるでスローモーションのような彼の様子を見ながら、私は自分の胸に自らの剣を刺していた。
身体が地面に叩きつけられるように、私は倒れる。裏切り者の側にやって来た主が、私の頬に優しく触れていく。
温かい主の体温が、段々と感じ取れなくなるのが嫌で、まだ動ける自分の手で主の手を握りしめた。
「申し訳ございません。私は、自分の意志を貫くことも、貴方様に背くことも、何一つ出来やしなかった」
「……馬鹿者が! 許さん、お前など誰が許すものか! このまま死んでみろ、俺は一生お前を許さん!」
私の頬で冷たい雫が弾けた。
ああ、主よ。裏切り者のために涙を流さなくても良いのです。裏切り者など決して許さなくて良いのです。
だからどうか私のことはお忘れ下さい。それが、卑しい私の一番の望みなのです。
「愛して、いる。だから、どこか遠くへなんて行かないでくれ」
その言葉は、この世界を捨てた私には身に余るような言葉。馬鹿な主だ、その感情こそが私をここまで追いやったというのに。
「おしたい、しておりました」
馬鹿な私だ、この感情を早く捨ててしまえたらこんなことにはならなかったのに。
私達は馬鹿者同士、とてもお似合いだった。
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