結局は私の独りよがりな愛だった。彼の好きと私の好きはあまりに違い過ぎて、あまりにも遠かったのだ。
 故郷に帰るために電車に乗り、数時間が経つ。窓から見える景色はいつの間にか段々と見慣れたものに変わっていた。
もう少しで彼に会える。そう思ってしまった自分にまた心がチクリと痛んだ。

 駅の外へ出ると母が待っていた。数年会っていなかったはずなのに何も変わっていなかった。

「母さん、ただいま」
「おかえり。あんた少し痩せたわね」
「ちょっとね」

 母が少しだけ悲しそうな顔をして笑う。私も何とか口角を上げた。上手く笑えているだろうか。
母と並んで家まで歩いていく。色々話はしたのだが、何を話したかはあまり覚えていなかった。頭は彼のことばかり考えていた。

「でねー、お向かいの××さんたらね」
「母さん」
「ん、何」
「純哉、元気にしてる?」

 声が震えた。久しぶりに彼の名前を口に出した気がする。母は驚き、また悲しそうに笑みを浮かべた。

「会いに、行きましょう」

 数年振りに彼の家を見る。扉には幼い頃、私と彼が描いた落書きがまだ残っていて、また嬉しくなった。
恐る恐るチャイムを押すと彼の母親が出て来た。彼の母親は私を見て涙ぐみ、満面の笑みで迎えてくれた。

「どうぞ、上がっていって。純哉も喜ぶわ」

 そう促され彼の家へと入っていく。数年振りに入ったのだがこれもまた変わっていなかった。
居間のソファに座ると、彼の母親がお茶を出してくれた。どうやらまだ彼は帰って来ていないらしい。

 そして彼の母親は私に向き直って口を開いた。何故だか身体がざわざわとした。

「落ち着いて聞いてほしいの」

 純哉は私が家を出た数日後に死んだ。事故死だったそうだ。信号を無視した車が彼に突っ込んで即死。
私は彼の家から出て走り出す。母の声が遠く後ろから聞こえたが、止まれなかった。

 死んだ。私がうじうじと悩んでいる間に、彼はこの世界から消えてしまっていた。
なんて残酷な現実なんだろう。これで私が彼に思いを伝えることは永遠に無くなってしまったのだ。

 ひたすら走って着いた場所は彼との思い出の場所だった。私は彼とここに来る為に故郷に帰ってきた筈だったのに。
先程彼の母親から渡された手紙が手にある。彼が私に宛てた最後の手紙だった。封筒には、懐かしい彼の字で私の名前が書いてあった。

 封筒を開けるのがたまらなく怖くなった。しかし、このまま読まずに捨ててしまうのはもっと怖い。
私は意を決し封筒を開ける。中に入っていた便箋にはただ一言だけ書いてあった。

 その一言をどれだけ私が望んだか。何故その言葉が伝わったのが今だったのか。彼の心は私の心と同じだったことに今更気づいてしまった。

「ずっときみが好きだった』

 結局彼の愛も私の愛も届くことはなく、涙の海に沈んでいった。




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