その人は弱い人だった。陰口を言われれば涙を流しながら塞ぎ込む。
またある時に理不尽な暴力を振るわれれば、頭を抱え込んで丸くなり己を守っていた。

「これ以上生きる自信がないんだ」
「生きるのに自信が必要なのか?」
「分からない」

 そう言ってまた涙を流す。頬から滑り落ちていく雫は真珠のように美しかった。

「死にたい」
「嘘」
「嘘なんかじゃない」
「いいや嘘だ。本当に死にたいやつは、あんたみたいわざわざ報告なんてしない。やつらは勝手に死ぬんだよ」

 弱い人は涙を拭いこちらを伺う。弱いくせに何かを探るような視線が気にくわないが、好きなだけ探らせてやることにした。

「きみは死んでしまうの?」
「……そう見えたのか」
「なんとなく。どこか遠くに行ってしまいそうだったから」

 伸びてきたか細い腕を一歩後退して避ける。避けられた腕はゆっくりと地面に下ろされた。

「きみは強い人なんだね」
「ああ」
「でも僕らは同じだ」
「違う、俺は弱くない」
「強い人ならば、」

 今こんなところで弱い者と一緒にはいないだろう。
 確信を抱いたその瞳が嫌いだ。耳障りの良い声が嫌いだ。弱い己が見透かされているようだった。

「あなたもまた弱い人なのだな」



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