それは、突然のことだった。
「ママね、再婚しようと思うの。」
幸せそうな笑顔を向けながら、再婚しようと思うの、なんて言う実の母親。
普通の子であれば、恐らくは多少なりとも反対はするのだろう。
だけど、私にはそんなこと、本当に反対であっても出来そうにもなかった。
父は私が幼い頃に他界。
それからは父が遺した金銭と母のパートで食い繋いだり、祖父母から多少の援助してもらっていたりした。
ずっと、女手一つで私を育ててくれた母。
大変だっただろうに、金銭的に厳しかっただろうに、母は私を大学に通わせてくれていた。
そんな母が幸せになるときに、どうして反対することが出来ようか。
もう大学も卒業して、社会人として働いてる。
暮らしだって、会社の近くの賃貸を借りて、ひとりで暮らしているし。
だから私と母が干渉し合うことは減るので、それで反対するのも、少しおかしい話しだ。
「ママ、幸せになってね。」
私はそれだけ言って、母の再婚を祝福した。
そんな祝福の言葉を向けて、これでどのくらい時間が経っただろうか?
まだ二週間前程度だったのにも関わらず、早速家に結婚式の招待状が届いた。
それと、普通の手紙。
もし反対していても、多分結婚はするつもりだったんだろう。
そうでないと、この速さは異常だ。
結婚式の招待状は良いとして。
気になるのは、普通の手紙。
ビリビリ、と封を開けてみると、一枚の手紙と一枚の写真があった。
写真には見知らぬ男性と、幸せそうに微笑む母の姿が写されている。
なんだ、早速惚気ですかこのやろー。
写真に呆れつつ、手紙を見る。
手紙の内容を簡潔に説明するなら、相手方には息子が居るから会いなさい、と、そんな感じ。
年齢は私よりも年下で、どうやらまだ高校生らしかった(若いって素晴らしい)。
挙式前に会っておいてほしいらしく、今週の日曜日にレストランを予約してある、とも手紙に書かれていた。
いやいや、もし私に予定があったらどうするつもりだったのよ。
まあ、予定なんて無いけど。
「弟、ねぇー…。」
もちろん、私には今まで兄妹たるものが出来たことが無い。
今回で初めて、弟が出来る。
それはやっぱり嬉しいことだけど、不安があることも否めない。
だって、相手はまだ高校生で、いろいろと敏感な時期でもある。
そんなときに、もう半50歳を迎えるような独身干物女が姉だと言われたら、その子はどう思うんだろうか。
そうは思っていても、時間というものは勝手に流れてしまうもの。
いろいろと考えてはみたけれど、勝手に思い込んで何かしてみたところで変わるものなどあるわけがない。
だからもう、考えないで会うことにした。
「………遅い。」
諦めて数日後。
約束されていた日曜日になり、詳しくはメールで決めたのでそのメールに書かれた時間と場所に来てみたは良いものの…(と言うか最初からメールで送れば良かったのに)。
母も再婚相手も再婚相手の息子も居ない。
私はあまり、待つことを好まない。
それは母も知っているのに、よく私を待たせるな…と感心してしまう。
私のキッチリとした性格…多分父から受け継いだんだろうなあ…。
約束の時間を過ぎて30分後。
送れるとのメールは時間になってすぐに来たけれど、30分も遅刻するのであればあらかじめの時間くらい予想してほしかった。
まあ、マイペースな母だから仕方がないものなのかもしれないけど。
「なまえ!」
「遅い。」
「遅れてごめんなさいね。」
3人が到着したのは、約束した時間を40分ほど過ぎてからのことだった。
これでも怒らない私のことを、誰か褒めてくれないだろうか。
仏の心を手に入れている気分だ。
ふと視線を再婚相手に向けると、ふんわりと優しく微笑まれた。
ちょっと幸薄そうな感じもあるし、昔のイケメン感はあるけど…優しそう。
これなら…この人なら母も幸せになれるかもしれない、と思ったら安心出来た。
この人であれば母を託すことが出来るから。
さらに視線をズラすと、再婚相手の後ろに隠れる高校生の姿が。
そっか、恥ずかしいか気まずいかでお父さんにしがみ付いているってことね。
「この人がお母さんの恋人。そしてこの子があなたの弟になる子よ。」
「え、っと…ジョンオプ、です…。よろしくお願いします、なまえヌナ。」
紹介された、新しいお父さんと弟。
母とお父さんはふたりで、そろそろ時間になるし…行きましょう、なんて言っているが。
私は今、それどころではない。
ジョンオプです、と吃りながらもふにゃあと笑ったこの子の笑顔が、あまりにも可愛くて。
胸がキュンと締め付けられる。
この感覚、まだ覚えているよ。
これは弟や妹に向ける癒しの気持ちなんかじゃなくて、まさに"恋"をしたときの気持ち。
まさか、7,8歳も離れているこの子に…ジョンオプにこんな気持ちを抱くなんて。
「ママ!」
「なぁに?」
「家庭内恋愛は禁止!?」
「え?」
「へ…?なまえ、ヌナ…?」
気付いてしまえば行動しよう。
元から行動派の私はジョンオプの隣に立ち、母を呼び止めて家庭内恋愛は大丈夫かと確認。
ジョンオプだって、解るだろう。
私が誰に対してそういう気持ちを抱いているのか、くらいは。
咄嗟に握ったジョンオプの手。
その手には、だんだん熱がこもってきた。
ジョンオプ、ごめんね。
私はあなたよりだいぶ歳上だけど…母と同じで好きになったら直球型な私は、まだ諦めることは出来ないみたい。
「良いよね?ママ。ジョンオプと、もし付き合ったりしちゃっても。」
「あら!そうなったら家族4人でずっと一緒になれるのね。嬉しいわぁ!」
「え、あの、え…?」
戸惑うジョンオプなんて気にしない。
顔もよく熟れた林檎みたいに紅く染まっているし、嫌ではないんだろう。
ジョンオプににっこりと笑みを向けて、取り敢えずは挨拶から初めてみることにした。
はじめまして、弟くん
私はキミに恋をしちゃったみたい。
(よろしくね?ジョンオプ。)
(あ、あの、ヌナ…?その、手…。)
(だめ?いや?)
(だ、だめとかじゃ、ない…です…。)
((真っ赤になって…ウブだねぇ。))
(なまえヌナ…?)
(可愛いね、ジョンオプ。)
(え…?)
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