連絡を取って数十分後。
榎本と瀬尾宅で合流し、中へと入る。
「あれ…?」
「どうした、青砥。」
「いえ…。」
まさに豪邸と言わんばかりの家に入る直前のことだった。
青砥は、目にしていたのだ。
数日前に自身とぶつかった、あのすこし不審な人物を。
けれど人の記憶とは危ういもので、残念ながら青砥は"どこかで見た人"という認識しかなく、気にすることをやめた。
その人物は屋敷を見て回っていて、まさに不審人物さながらである。
けれど芹沢に急かされ、前を行く榎本のせいで深く考えることはせず、一旦その人物を頭の四隅に追いやった。
「どうだ榎本。何か解るか?」
「いえ、今のところは。」
「そうか…。」
「…先生、私の息子は、誰に殺されたんでしょうか…。」
この部屋に居るのは、事件の被害者であり芹沢の取引先である瀬尾結人の父。
それから、事件に関わる人物3人だ。
「キミたちは?」
「あ…俺、山岡力也です。映画同好会のメンバーで、事件当日は瀬尾から社長の家に呼ばれてました。」
「僕は谷山涙です。僕も映画同好会のメンバーで、山岡と同じく瀬尾から社長の家には呼ばれていました。」
「あの、ぼくは、チョン・イルンです。社長に拾われてこの家で働いてます。」
この3人、お互いに接点があるのは山岡力也と谷山涙のみで、チョン・イルンは社長に拾われ、住み込みでこの家の家政婦として働いているらしい。
父親の話によると、第1発見者は帰宅した際に瀬尾結人に声を掛けた、イルン。
イルンのアリバイは成立しているため、容疑者ではないらしい。
ではなぜこの場に居るのか。
誰もが不思議に思ってはいたが、それを告げたのは榎本だった。
「どうして容疑者から外れているあなたが、ここに居るんですか?」
「あ…それは…。」
「彼が僕を呼んだから。」
榎本からの問いにイルンが答えようとしたと同時に、閉じられていた扉が開く。
そこには先程、青砥が目撃した不審人物さながらな動きをしていた人物がいた。
「あ!」
「なんだ青砥、知り合いか?」
「いえ、さっきこの家の周りに…。」
それは青砥もすぐに思い出したらしく、声を上げてその人物を指差す。
その人物はそれを見てにっこりと微笑んだあと、イルンの肩に手を置いた。
「僕の名前は、赤西なまえ。ここに居るイルナは、韓国在住時代の友だちさ。」
「ただの友人が何故こんな現場に…。」
「だって僕、探偵だから。」
「は!?」
「探偵!?」
にっこりと笑みを浮かべて、自身のことを「探偵だから」と告げる赤西。
それに驚いたのは青砥と芹沢のみで、榎本は表情をピクリともさせなかった。
某ブランドのパーカーを着ていて、キラキラと輝くスタッズが付いたキャップを被っている頬に絆創膏をつけた赤西を見て、芹沢や青砥にはごく普通の一般人にしか思えなかった。
それくらい、普通の、探偵を仕事としているような人には特に見えないのだ。
けれどそんな反応は慣れたものなのか、赤西は芹沢や青砥の反応を気にすることなく屋敷を見渡している。
「なんだこいつは…」そう呟いた芹沢の声は、誰に届くこともなかった。
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