FICTION - side.BEAST




鏡の自分を見て、苦笑いが出る。

この前…と言ってもだいたい1ヶ月ほど前のことだが、バッサリと切った髪の毛。
Breath以降も少し伸ばそうと思って伸ばしていたのに、切ってしまった。



「失恋して髪を切る女の子じゃあるまいし…ほんと、馬鹿だよね。」



切り替え、と自分で思って美容院に行き、切ってもらったは良いものの。
どことなく、ジュンヒョンと似ていた。

これでじゃあまるで、別れを告げた男に必死に縋っている女のようだ。
そんな女にはなりたくないのに、すべてを理解している自分からしてみたら、重なっていた。

しかも、今回もまた僕は女装する。
今回ばかりは内容が内容だったから社長に直談判したけど、まさか事実を言うことなんて出来なかったし、ファンからの反応が良いということで他に代役を立てることは無理だった。

今回はカップルの話し、だけど、相手はなんとジュンヒョンで。
皮肉にも、歌詞の内容と演じる役柄は今の僕たちの関係にはぴったりだった。



「なまえ、大丈夫…?」

「仕方ないよ。これは仕事なんだから。」

「社長に直談判までしたくせに、よく言う。」

「…煩い。」



ウィッグを着けて、女の子に化けた僕。
やっぱり相手が相手だからなのか、それとも内容が内容だからなのか…気分が晴れない。

そんな調子の僕を心配したらしいドンウンとヒョンスンが寄って来て、様子を伺って来た。
大丈夫か、と訊かれたら大丈夫じゃないけどここまで来たら仕方がない。
吹っ切れてやるしかないんだ。

ドンウンの問い掛けに「これは仕事なんだ」と言うとヒョンスンは、「社長に直談判までしたくせによく言う」と言ってケラケラ笑った。
あれは仕事が始まる前だったからしただけであって、今さら抵抗する気なんてない。
まったく、ヒョンスンも意地が悪いな…。



「僕が女の子だったら、全然変わったのに。」

「…皮肉だよね。1ヶ月くらい前に別れた恋人同士がやるなんて、狙ってるとしか思えないくらい逆に清々しいよ。」

「なまえ…。」



さっきまではケラケラと笑っていたのに、今度は急に真面目なトーンで「変わったのに」と言ってきたヒョンスン。
この四次元人間の変わりようには、今もまだ、なかなかついていけない。

だけど例えヒョンスンが女であろうと、社長は僕から変えなかったと思う。
あの人、融通効くくせに頑固だからね。

ヒョンスンの言葉に応える変わりに、どんどん自爆していく僕。
こうやって悲観めいたことをドンウンたちに言っているあたり、僕は相当ジュンヒョンのことを好きだったみたいだ。



「ミンスさん、ジュニョンさん!スタンバイお願いします!」



どうやら撮影の準備が整ったらしく、ドラマ側の撮影が始まった。

"幸せな恋人同士"としてジュンヒョンの腕に包まれ、微笑みあう。
少し前までは、こんなもの当たり前で…。
きっと今もあのまま続いていたら、本当に心から笑い合えていただろうに。

僕だけの演技とジュンヒョンだけの演技は終わっているから、あと残されているのはふたりのシーンだけなのに。
歌撮りを終えたあとだからなのか、変に感情が入っているような気がした。

本当に、皮肉だと思う。
ラップのパートも歌詞がそのものだし、愛してるの3文字が届けば良いと願う歌の主人公の気持ちも解ってしまうから。
変に、感情が入る…。



「胸が、苦しい…。」



誰かが、そう呟いた。
僕だったかもしれない。
だけど、聞こえた。

それはジュンヒョンにも届いていたらしく、僕の肩を抱く手に力が篭る。
その手を離さないでほしいと思った僕は、ホンモノのワガママっ子だと思った。

次はまた場所を変えて、ふたりが出会う。

特別なことをしたわけじゃない。
加工しても良いと言われた。
だけど、何もない場所でジュンヒョンと向き合ったら…勝手に流れ落ちたんだ。

ああ、やっぱり。
僕は感情移入し過ぎていたらしい。

もう戻らないジュンヒョンは、僕の隣からどんどん離れていってしまう。
それが目の当たりにされているみたいで、胸が苦しくて、勝手に涙が溢れた。

ジュンヒョン。
僕はキミが思っているよりも、キミのことが好きだった…いや、愛していたみたいだよ。

僕が本当に涙を流したあと。
ジュンヒョンが辛そうな表情を浮かべた気がするのは、知らないふりをしておく。






(…ぐすっ。)

(なまえ、これェ…感動した…。)

(……僕より泣かれると萎えるんだけど。)

(おまえ、成長したなぁ…。ぐすん。)

(感情移入し過ぎだろ…ぐすっ。)

(だから…。もう、なんでもない。)

(…お疲れ。綺麗だったよ、なまえ。)

(…ありがとう、ヒョンスン。)



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