BAD GIRL - side.BEAST




…ムカつく。



今日、僕たちBEASTのデビュー曲のミュージックビデオを撮影する。
僕は社長から自分はメインダンサーだと聞かされたからこそ、練習生の頃、男に間違えられないようにと伸ばしていた髪の毛をバッサリ切って自分好みにしたのに(伸ばしたところで周りやファンの子には女子力の高い男としか思ってもらえていなかったけど)。

鬱陶しかった髪の毛も切って。
髪色も好き勝手に茶髪ベースで毛先を金髪にしたと言うのに、僕にはまともなパートと言えるものはひとつも無かった。

ジュンヒョンと被ってばかりのラップ。
センターと被ってばかりのダンスパート。
そんなものは、リードラッパーともメインダンサーとも呼べなかった。

社長に直談判したところで、BAD GIRLに関しては我慢してくれ、としか言われない。
収録されてる曲では個人パートが少しあるけれど、BAD GIRLにはまったくなかった。

僕はただ、兄を越したかっただけなのに。
別に自分から「男のグループに入れてくれ」なんて言っていない。
僕は「早くデビューしたい」としか言っていなかったのに、何故。

4minuteもあったのに、僕を男のグループに入れたのは事務所の勝手な判断に過ぎない。
それなのに批判され、それを恐れてなのか僕のパートを無いに等しく扱われても、僕はまったく嬉しくなかった。

批判がなんだと言うんだ?
そんなものを恐れて生きて行けるほど、芸能界というものは甘くない。
そんなもの解っている。
僕を甘く見るのも良い加減にしろ。



「なまえ。」

「…なに。」

「はい。コーヒー。好きでしょ?」



撮影のときも、カメラが回っているとき以外は不機嫌そのもので、隠したりしなかった。
僕には実力があるはずなのに、どうしてそれを隠されなければならない?

個人撮影で休憩していると、同じく休憩中のドンウンが僕にコーヒーを持って来た。
こいつは一番最初に女である僕を受け入れ、そして、一番最初に僕の国籍なども受け入れてくれた同い年の友だち。

練習生の頃からずっと一緒だった。
僕よりも先に事務所へ入り、僕よりも先にグループを組み、そして僕よりも先にデビューした兄を違う地で追い掛けていた僕。
そんな僕はいつも人を寄せ付けず、元からの性格で誰に対しても厳しくて、冷たかった。

それなのにドンウンは、そんな僕の側にずっと一緒に居てくれた。
そんなドンウンに僕はいつしか心を開き、あれだけ社長から口外することを禁じられていた自分のことを包み隠さず教えたんだ。
まあ、性別は最初から隠していなかったんだけど(勝手に勘違いされていただけだし)。



「なまえ、今はさ、きっと耐えなきゃいけない時期なんだよ。」

「…そんな時期、僕は嫌だ。」



だからこそドンウンには、僕のすべてを隠さずに言うことが出来る。
ドンウンだけが、異国の地に立つ僕の唯一の友だちと言っても過言ではない。

ドンウンは僕の隣に座り、「耐えなきゃいけない時期なんだよ」と言った。
解ってる、でも、嫌なんだ。
耐えたくない。
僕は早く兄と同等になり、いつも先を行く兄を越えたいんだ。

別段、兄のことが嫌いなわけではなかった。
2番目の兄と僕を可愛がってくれたし、良い兄だと胸を張って言うことが出来る。
でも、だからこそ越えたいと思っていた。

僕がデビューする前からドラマで主演を勝ち取り、出す曲もヒットする。
兄と違う土地で活躍してやろうと決めた僕に対し、兄は「絶対に無理だ」と言った。

そう、初めての兄の反対。

それに思わずムッとした僕は、「絶対に越えてやる」と宣言したんだ。
兄のことは好き。
だけど、好きだから…尊敬しているからこそのライバル心と、反対されていたことによる反感心で、僕の心は焦るようになった。

やっとデビューが決まったのに。
やっとデビューが決まって、メインダンサーというポジションを手にしたのに…。
僕のポジションは、いったいなんなんだ。

耐えなきゃいけない。
そんなこと、言われなくても解ってるよ。
だけど僕は…満足出来ないんだ。



「なまえがジンさんに対して焦りを抱いてるのも解る。でも、僕たちはまだスタートしたばかりなんだよ?ね?」

「…僕は、早く…越えたいのに。」

「少しずつ階段を上がったら良いんだよ。僕もダンスパートなんてほとんどないしさ。」

「それはドンウナが踊れないからでしょ。」

「うわ、傷付くー。」



慰めてくれているのか、励ましてくれているのか…それは解らないが。
ドンウンの言葉を訊いていると、「それもそうか」と思えるようになった。

確かに、僕たちはまだデビューが決まっただけで曲も途中の、スタート地点に立ったばかり。
僕に関してはまだメンバー(特にドゥジュン)と馴染めていないしで、このままじゃ追い越すことさえままならないかもしれない。

ドンウンの軽い冗談にも、軽くあしらうことが出来るまで落ち着けた。
傷付くー、なんて言っているけど、ドンウンの顔は笑っている。

良い友だちを持てたな、なんて。
そんなこと、ドンウンには絶対に言ってやらないけど(調子に乗るだろうから)。



「なまえー、ドンウナー、撮影だってー。」

「はーい。…なまえ、行こ。」

「うん。」



しばらくして、撮影が終わったヒョンスンにドンウンとともに呼ばれる。
ドンウンは先に立ち上がり、座っていた僕に手を差し出して来た。

こうなったら、意地でもBEASTのファンに僕のことを認めさせてやるよ。
BEASTを組んでからの短期間、僕は自分が任された担当を磨いたんだ。

反対していたこと、後悔させてやる。
新しく成長した僕を見て、怯むなよ。






(なまえ!ファンが増えてるよ!)

(当たり前でしょ。僕なんだから。)

(これでもうちょっと性格がなぁ…。)

(なに?文句ある?)

(ないない!でも、もう少し馴染もうね。)

(…解ってるよ。)



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