Jealousy Girl




…どうしようか。



「なまえ…?えっと、次…なまえの番…、」

「なに。言うなら早く言えば。もごもご喋って鬱陶しいんだけど。喧嘩売ってるの?」

「ごごご、ごめん!スタイリストのヌナが呼んでたから行ってあげてください!」



これは、どういう状況なんだろうか。

発している言葉に、普段の何倍もトゲが含まれているなまえ。
身体から不機嫌オーラも放たれているし、少し触れただけでも怒りを買いそうなレベルだ。

そんななまえに怯えながらも、メイクに行くように言うドンウン。
だけどドンウンは怯えながら言っているから、言葉はなかなか出て来なくて。
それすらも今のなまえの気に触るらしく、刺々しい言葉で返されていた。

宿舎から此処に来るまではなまえも普通にしていたし、機嫌も悪くなかった。
ある雑誌の撮影に来てメイクをしてもらっていたら、何故か不機嫌になっていて。
なにがあったのか、皆目見当もつかない。



「なまえ、おまえなに拗ねてんだよ。」

「…別に。」

「あのな…。このままの空気じゃロクなモンが出来ないって解んねぇの?自分にも他人にも厳しいおまえなら、そんなこと誰よりも解ってんだろ。さっさと機嫌直せ。」



俺がなんで拗ねてるのか訊いてみても、なまえは知らぬ存ぜぬを通す。
怒っている、と言わなかっただけ逆輪に触れようとしていないことに気付けよ。

これじゃあいつまで経ってもラチが明かない。
説教するかのように機嫌直せと言うと、なまえの顔はどんどん険しくなった。

俺の言葉には応えず、結局黙ってメイクを受けにスタイリストのところに行くなまえ。
こうやって黙って不機嫌になるのは、意地っ張りななまえの悪い癖だ。



「ヨン・ジュニョン。」

「…なんだよ。」



メイクもなまえで最後。
俺たちの準備が終わったら、あとはスタジオでの準備が終わるのを待つだけ。
だから今は控え室で、メンバーだけが待機。

雑誌を読んで暇を潰そうと思い、買ってあったコーラを置いて雑誌を読んでいるとなまえから不意に話し掛けられた。

「なんだよ」と言いながらなまえを見ると、なまえは未だに不機嫌そうで。
その不機嫌な理由と、不機嫌そうに呼ばれたことの意味がサッパリ解らなかった。



「ヨン・ジュニョン。僕だって人間なんだ。」

「?知ってるけど、それがなんだよ。」



今にも攻撃してきそうななまえ。
そんななまえに思わず身構えていると、「僕だって人間なんだ」と言ってきた。

別に俺は、なまえのことをヒョンスンのような四次元の人間とは思っていない。
それにちゃんと、人間だって解っている。

それなのにも関わらず、なまえは自分を人間なのだと射殺す視線で言ってくるんだ。
どういうことなのか、まったく解らない。



「人間なんだから、感情もある。キミは僕をどう思って見ているか知らないけど、僕だってキミと同じなんだ。僕も…嫉妬くらい、する。」

「…?どういう……あ、」



なまえが言っていることの意味が解らず、どういうことなのかを考えていると言われた。
俺と同じで嫉妬する?
言いたいことの意図が掴めない。

このままどういうことかと訊こうとしたとき、なんとなく思い出した。
俺好みのファッションショップを知っているスタイリストが居たから、メイクとヘアセットなどを終えても話していたっけ。

確かにあのとき、背中に視線を感じていた。
だけど振り返るとそれは消えるし、勘違いか何かかと思って流していたけど。
まさか、嫉妬していたなんてな。



「あれはショップの場所を訊いてたんだ。」

「うん、知ってる。訊いてたから。」

「は…?じゃあ別に、妬く必要は…。」

「だから?内容を解っていても、自分の男が他の女と話していることだけに腹を立てて、なにが悪いっていうの?」



…なんだろうか。
すごく、かわいいと思った。

「だいたいジュニョンが不機嫌を直せとか言うから直接言って自然治癒するイライラを治めてやったんだよ」なんて呟くなまえ。
なまえのそんな呟きも訊かずに、なまえの腕を掴んで思い切り引っ張った。

こいつは、なんと言うか。
いつも冷めていたから、俺と違って嫉妬しない奴なんだと思っていた。
だけど一丁前に嫉妬して、不機嫌そうに表情を歪めて、怒っていて。
そんななまえの姿が、新鮮だと思った。

かわいい。
幼稚な言葉かもしれないが、今は"かわいい"という言葉しか出て来なかった。



「お前、かわいすぎ。」

「…煩い。」



かわいくてかわいくて堪らなくて。
愛しいという気持ちに支配された俺は、自然となまえの額にキスをしていた。

すぐに唇を離すと、物足りなかったのか今度はなまえからキスをしてくる。
しかも、俺の唇に。

普段じゃこんなことはしないのに、珍しいこともあるものだと感心する。
彼女の嫉妬、なんてもの鬱陶しいと思っていたが、こうしてたまに妬いて、そして甘えてくるなら嫉妬もかわいいものなのかもしれない。

…俺って、愛されてんだな。



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