茜空




ふと空を見上げると、空は見惚れるほど綺麗な茜空になっていた。
茜空というものは特別季節は関係ないはずなのに、何故か秋を感じてしまうのは暖かな色味も関係しているのか…。
それは解らないが、茜の根の色に染まったこの空を見ていると、いつも思い出す。

あれは、もう4年ほど前のこと。
僕がまだ、日本にいた頃の話。

兄が組んでいたグループでデビューを果たし、着実に世の中へと名を知らしめていた。
それが例え悪い方向であろうが良い方向であろうが、兄は特に気にしていないようで。
ただいつも、仕事が終わったりして兄が家に帰ると、自慢な兄の顔をしていた。

そんな兄が誇らしくて、憧れたのは15の頃。
そしてその頃、偶然聴いていた東方神起の曲に惚れ込み、日本以外の国ではこんな音楽もあるのかと感動して韓国という国の音に惚れた。

日本で染み渡った音楽とは、また少し違う、とても新鮮な感覚の音楽。
国が違うのだから当たり前だと言われてしまうとそれで終わるが、それよりも、その違う音楽の中で兄に追い付きたいと思ったんだ。



『やめとけって。お前には絶対無理。』



その気持ちをまず、兄に告げた。
そうしたら兄は平然とした顔で、僕には無理なんだと全否定してきたんだ。

「どうして?」と訊けば「おまえはまだ幼いし言葉も出来ないから無理だ」と言われ。
それが悔しくて仕方がなかった。

無理だと言われたその日。
空は僕の心境とは違って美しく、だけどどこか、アンニュイさを含んだ茜空だった。

少し経つと兄はデビュー時よりも忙しくなり、僕やレオ兄に構う時間も減っていく。
だからそんなとき、僕は当時数少なく置かれていた韓国語の本を買って勉強した。



『なぁなまえ。まだ早ェよ。それに社交性もないおまえがひとりで韓国に行って、学校や住むところの手助けなんかは誰がするんだ?別に日本でも良いじゃん。なんで韓国に拘るんだ?』



僕はすぐにでも、韓国へと旅立ちたかった。
だけど兄は両親から訊いていたのか、僕のことを必死に引き止める。

解ってる。
言葉が通じない僕が行ったところで、ダンスも歌もラップも、すべてが特別秀でているわけではないから…可能性は低いと。
だけど、やりたかったんだ。

そして、約2年間。
必死に歌もラップもダンスも語学も勉強して、それまで通っていた高校を退学してまで韓国へと渡った。

高校に通いながらも韓国へと何度か渡ってオーディションを受けていたから、既に僕が身を収める事務所は決まっている。
そして事務所に練習生として入り、編入した高校に通いながらもバイトとレッスンに励んで、毎日くたびれるまで練習を重ねた。

事務所から見ていた空は、日本と同じで。
同じように茜の根の色をしていた。

そんな努力をしてから、さらに2年後の現在。
僕は社長に認められ、BEASTというグループでデビューを果たし、1年間活動している。
ボーイズグループとして扱われるのが少し気に入らないけど…まあ、良い。

無理だと言っていた兄と、韓国の中では同じような位置に辿り着けた。
だけどまだまだ未完成な僕たちは、土台に立てただけに過ぎない。



「なまえ、ボーッとしてどうしたの?」

「…ヒョンスン、邪魔だよ。離れて。」



だけど、こんな僕にも仲間が出来た。
ひとりじゃない。
無理なことを可能にして来た。

ちょうど見えた空を眺めているとヒョンスンから話し掛けられ、意識が戻る。
そして感じる、後ろからの衝撃。



「おい離れろ。くっつくな。」

「えー。ジュニョアのケチ。」

「俺の女にくっ付くお前が悪い。」



今の僕には、仲間がいて。
そして、支えてくれる親友と恋人も居る。

まだまだ兄の背中を追い掛ける立場だけど、今はまだそれでも良いと思っている。
こいつらとなら、大きなステージも見れるような気がするから…。

"絶対に超えてあげるよ。"
デビューするとき、兄に言った言葉。



「僕はジン兄を超える。」



いつも見ていた茜空に、小さく誓いを立てた。



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