そんな答え、要らない
もう、危ないんだなと思った。
いつまでも幸せは続かない。
そんな言葉を何処かで訊いた気がする。
幸せではなくなる、とは。
一概に説明出来るようなものではないけど、僕の不幸は…たったひとつだけ。
心の在りどころ。
それを失うこと、なんだ。
「…終わろう。」
「うん。」
「…バレるの、早かったな。」
「正確には"広まりかける"だけどね。」
僕とジュンヒョンは、付き合って1年が過ぎていったというのに。
周りに、嗅ぎ付かれてしまった可能性が出た。
社長だって僕とジュンヒョンの関係を疑っているみたいだし、他の人間だってそう。
身から出た錆、とでも言おうか。
あれだけあからさまにしていた僕たちだから、まさに自業自得の結果なんだ。
ジュンヒョンとふたりで、宿舎に縮こまる。
いつもみたいに触れ合うこともなくて、何かを囁かれるわけでもない。
僕たちの間に紡がれていくのは…いつもとは違う、終わりを告げる鐘の音だけ。
「…もっと、恋人として一緒にいたかった。」
「うん。」
「俺は…大切にして、ずっと…おまえのことを守って、やりたかったのに…っ。」
「うん。」
「好き、なのに…っ!」
涙を堪えながら言葉を口にするジュンヒョン。
僕はただ相槌を打つことしか出来ない。
気持ちは、ジュンヒョンと同じだった。
これからもずっと隠し通して、僕たちが安定し出したら公表して…幸せになりたいと。
ずっと、ジュンヒョンと恋人として一緒に居るんだと、僕ですら思ってしまっていたんだ。
だからこそ、ジュンヒョンの言葉には相槌しかしてあげられない。
もし僕が「一緒に居たい」と言ったら、きっと周りを巻き込んで終わってしまうだろうから。
「…最後に、抱き締めて。」
「………。」
「抱いてくれ、とは言わないから。お願い、最後にもう一度だけ…。」
僕は、何を望んだのだろう。
最後に抱き締めてくれ、だなんて。
きっと僕は冷たく突き放されて、別れてやって良かったと言いたかったんだと思う。
ふわりと包み込まれる身体。
ジュンヒョンの香水が鼻腔を擽る。
その瞬間、涙が零れ落ちた。
こんな終わり方、望んでいない。
こんな応え、僕には必要なかった。
濡れていく僕の肩とジュンヒョンの肩。
心が痛いと訴えかけるのに、身体は優しさと愛しさに包まれている。
そんな矛盾、僕は要らない。
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