物好きな男の子
ひとりぼっちだと塞ぎ込んでいた空間に、強引にも押し込んで来た物好きが居た。
そいつの名は、ソン・ドンウン。
僕はそいつが大の苦手だった。
「ミンス、今日のレッスンで此処解らなかったんだけど…教えてくれる?」
「………。」
誰も寄せ付けないと決めていた心に不躾なほど強引に入り込んで来たこいつは、毎日のように僕に話しかけて来た。
言葉を交わすつもりなんてない。
冷たくしておけばいつか離れていくだろう。
それが僕の見解だった。
だけどこいつは、いつまで経っても僕から離れて行こうとはしない。
いつもべったりへばり付いていて、練習生たちから好奇の目で見られていた。
ソン・ドンウンは、元から社交的らしく、周りにはいつも人が居た。
こういう人間が多く存在していることは、もちろん知っている。
知っているからこそ、こういう人間ほどひとりぼっちを放置しておけない、なんて偽善者ぶった気持ちで構ってくるのも解っていた。
僕はそれが嫌い。
偽善なんかで繕えるものなんか、そんなもの結局はただの偽りでしかないから。
どうせ無視しておけば、こいつも他の奴のように勝手に離れていくんだろう。
そう思っていたのに、こいつはしぶとかった。
「ねぇミンスー。今日一緒に帰ろうよー。」
「ねぇ、どうしてキミは僕に付きまとうの?」
「え?付きまとう…?」
ほら、今日も。
また話しかけて来た。
付きまとってほしくない。
けれど僕なんかを付きまとう理由も知りたかったから、好奇心で訊いてみた。
目の前の男はただ、意表を突かれたかのように間抜けヅラをしているだけ。
「付きまとわれても迷惑なんだよ。ただの同情だったらそんなもの要らない。惨めになる。」
すっぱりと言ってやった。
理由を訊いてみたい気持ちはあるが、どうやらそれよりも、付きまとわれることに対しての迷惑心が勝っていたらしい。
同情なんかで付きまとわれても、そんなの後からただただ惨めになるだけ。
だからもう止めてくれ、と言ったのに、こいつは僕の腕を優しく掴んだ。
「僕はミンスと友だちになりたかったんだ。」
「…友だち?」
「うん。嫌ならこれから付きまとわないけど、友だちになってくれるなら、一緒に帰ろう?」
あろうことか、この男は僕と友だちになりたいのだと言い出した。
友だちなんて、こんな異国の地で作れると思っていなかったのに。
なんとも言えない感情が、胸を支配する。
これが"喜び"という感情だということに気付くまで時間はかかるけど、僕はこいつを突き飛ばすわけでもなく、黙っていた。
それを肯定と捉えたらしいこの男は、にっこりと笑って僕の腕を掴んだまま歩き出す。
こんな手、振り払えば良いのに。
それくらいのことが、出来なかった。
ソン・ドンウン。
それは、のちに掛け替えのない親友へとなる男の名前だった。
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