存在価値
あいつは、ストイックと呼ぶにはあまりにもストイック過ぎる人間だった。
何かに追い掛けられるように自分を追い込み、そして他人の妥協を許さない。
練習生だろうが関係ないほど、厳しかった。
本来ならばデビューを争う人間だし、やる気がないのから放っておけば良いモノを。
俺なら放置するような人間にだって、厳しくあたって努力させた。
それの有り難みに気付く人間は少なくて、だけど少なくとも、今デビューしている人間のだいたいはそれに気付くことが出来たんだ。
でもあいつは人を寄せ付けることをせず、唯一近付けさせる人間と言えばドンウンだけ。
あとの人間は接し方が解らず、どうしても距離感が掴めないようだった。
「ジュニョン、何をボーッとしてるの?」
「……いや、なんか、昔を思い出した。」
それももう、何年か前の話で。
今ではこいつも…なまえも、俺たちに慣れたのか当時の刺々しさはない。
そして、俺には唯一ドンウンだけだったなまえが接近を許してくれた。
なまえを見て、"愛しい"という感情がどんどん溢れ出してくる。
昔の俺はこんな男じゃなかったのに。
「なぁなまえ。」
「なに。」
「俺って、お前にとってどんな存在?」
「は?」
なんとなく訊いてみた。
なまえが思う、俺と言う存在。
簡単に教えてもらえるとは思っていないし、目の前の間抜けヅラは想定内のことだ。
だけど、訊きたかった。
ドンウン以外は誰も寄せ付けず、自らの口で何かを語ることをしないなまえにとって、俺はどんな存在なのかを。
「…ジュニョンは、僕を初めて認めてくれた、大切な人だよ。こんな僕を見捨てないで、ちゃんと向き合って愛してくれた人。」
訊きたかったとは言え、答えがあるとは思ってもいなかった俺が今度は驚いた。
耳まで赤く染めて俺を睨みながら、「もう良いだろう」と言ってくるなまえ。
"満足だ。"
その意味を込めて、俺はなまえを抱き締めた。
素直じゃないし、ストイック過ぎるなまえ。
だけどそんななまえが俺を大切な人だと言ってくれるなら、俺も大切にする。
俺にとってのなまえの存在。
それは、俺の愛しい人。
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