器用貧乏




「ねぇ、キミさ、やる気ある?」

「っ…。」

「やる気がないんなら、抜けてもらえるかな。僕はやる気のない人間と組めるほど、お人好しとかじゃないんだ。」



なまえは、いつもこんな感じだった。
他人にすごく厳しくて、手を抜いてると少しでも判断すると途端に冷たく詰め寄る。
そして、周りは威圧感からか何も言えない。

周りが反論出来ないのは、何も威圧感だけが原因じゃなかった。
それはなまえが自分自身にも厳しいのだと、みんな気付いていたから。

トレーナーに指摘されたところは次回までに、とかではなく、凄まじいほどの集中力でその日のうちにクリアしてしまう。
そんな努力をしている人間に、誰も歯向かうことは出来なかった。



「ねえなまえー。たまにはみんなにも優しくしてあげようよー。」

「…優しくしたら何かあるの?あそこの人たちが成長する?デビュー出来るようになる?」

「いや、それは…。」

「…先生が指摘しないのなら僕が言うしかないし、彼ら自身なんのためにもならないだろ。」



だからこそ、なまえはみんなから恐れられ、避けられていた。
見た目や雰囲気で近寄り難い、というのもあるんだろうけど、第一の原因は、誰かに優しく接しているのを見たことがないから、だろう。

言われるだけまだマシだと思え、と言わんばかりの不機嫌オーラを出しながら、飲んでいたパックジュースを握り潰した。
やっぱり…機嫌はよろしくないんだな。

なまえは、僕にだって厳しく吐き捨てる。
前よりは優しくはなったけど、それでも伝わり辛い、不器用ななまえなりの優しさ。

なまえはただ不器用なだけなのに。
不器用が故に、誤解されやすい。

事務所に入ったからにはみんなにデビューのチャンスを掴んでもらいたい、と前にウチでごはんを食べたとき、言っていた。
練習生が言うことじゃないよなあ、と思いながらも、なまえらしい、とも思えた言葉。

だからこそなまえは厳しくしているのに、やっぱり伝わらないから空回りしていて。
だけどそれもなまえらしくて良いのかな、なんて思ってしまった。



「事務所にすら入れない子だって存在する。それなのに事務所に入って満足して、そして堕落して、結局デビュー出来ませんでした、だったら意味がないでしょ。」



なまえはいつも、事務所に入れたこと自体を誇りに思っていた。
少し前に少しだけ訊いた、なまえのお兄さんにまつわる話し。

お兄さんを越えたくて事務所に入ったんだ、と訊かされていた。
自分の目標でもあるお兄さんを越えたくて、だから努力して、自分で手一杯なはずなのにも関わらず、周りのこともよく見てる。

本当に、器用貧乏というのはなまえみたいな人のことを言うんだと思った。
あれだけ器用に人を見ているのに、上手く伝わらないなんて…悲し過ぎる。

でもいつか、なまえなりの優しさが僕だけじゃない人にも伝われば良い。
それまでは僕がなまえの一番近くに、ずっと居てあげるから。



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