その子はまるで、天使のようだった。ふわりと微笑んだその顔には優しさが溢れ、そして、美しいとさえ思わされる。こんな人が世の中に存在していたことに、衝撃を覚えた。
「Excuse me.」
「………あ、はい。」
思わず見惚れていると、不意に話し掛けられて意識を取り戻す。ああ、英語で話し掛けてきたということは、日本語よりも英語で返してあげれば良かったのに。こんなとき圭人だったら、卒なく返すんだろうなあ。
それにしても、この天使はいったい誰なんだろうか。ここは有名なテレビ局だし、場所によっては一般人も入れるにしろ関係者にしか立ち寄ることの許されないエリアなのに…何故?
「あの、ここは、どこでしょう?行く方法が、わたしはわかりません。」
「あ、っと…ここは…。」
この天使のことをいくら考えてみても、今の俺に解ることなんてなくて。考えることを放棄したのとほぼ同時に、天使はそれはもう天使と呼ばざるを得ないような笑みを浮かべ、そして何やら紙を見せて話して来た。
なるほど。紙に書いてある場所に行きたいけど解らない、ってことか。テレビ局は入り組んでいて複雑だし、天使が日本の人でないのであればなおさら解らないだろう。
と言っても、説明して伝わるのか。本当なら案内でもしてあげたいのだけど、俺も収録を控えているから案内する時間もないし…。まあ、なるようになるか。
「Thank you!」
なんとか英語で道順を説明して、こと無きを得る。圭人ほどではないにしろ、それなりには理解出来て良かった。俺、天才。
天使は笑顔を浮かべてお礼を言い、急いでいたのか小走りでその場所を目指していた。走る姿もかわいらしいなんて、有り得るのかな。
「あれは絶対天使だね。」
「戻って来るなり突然なんなの伊野尾ちゃん。適当過ぎて、とうとう頭のネジぶっ飛んだ?」
「失礼やぞ!」
かく言う俺は、これから出演するスペシャルの音楽番組のため衣装に着替えてスタンバイ。天使に遭遇していたことで上がっていたテンションは、山田の辛辣な言葉で急降下だ。
そんな山田にジロリと視線を向けると、山田は山田で興味を無くしたのか、今度は知念に絡んでいるし。誰がやまちねしろって言ったよ。
知念に絡む山田を見れば、俺だってどうでも良くなるわけで。小さく「はあ」と溜息をこぼしてしまえば、すこし落ち着いてしまえた。天才なはずなのに単細胞じゃん、俺。違うし。
「…え!?天使!?」
俺はひかるたちと違って単細胞じゃないし、と自分に言い聞かせながら、不意に楽屋にあるモニターに視線を移せばそこには驚きの人物が映し出されていた。え、誰か言えって?それくらい空気で察してよねー。なんて。
「わ、マイカちゃんだ!」
「俺この子見たことある。山田に押し付けられたDVDにいたよな?」
「押し付けてねぇよ!」
この際、後ろで騒ぐ山田と大ちゃんのやり取りは無視させてもらう。そんなことよりも、よっぽど重要なことがあるんだ。
俺がさっき会った天使が、目の前のスタジオ中継モニターに映ってる、なんて。いったいこれは…どういうことなんだろう?
これはオーデション番組なんかじゃない。既にデビューしていて、なおかつ知名度も人気もあるグループが多く出る番組に。どうして彼女がいると言うんだろうか?
今もハテナで頭がいっぱいなのに、司会者が更なる爆弾を投下するものだからさらに混乱して来てしまった。情報量がキャパオーバーです。
「少女時代のみなさんです。」
「みなさん、こんばんはー!わたしたちは、少女時代です!」
あの天使が、少女時代、だって?