少女時代のことは、耳にしたこともあれば目にしたこともあった。
彼女たちの事務所はかなりの大手。しかも日韓だけでなく、世界的にも名高く人気のあるガールズグループだったはず。
母国である韓国はもちろん、日本でも出す曲はたちまちヒットし、ライブやテレビ番組やらと被る場面は少なからずもあった。でも、いつどこのタイミングでも、彼女…天使に遭遇したことはなくて。心の奥に違和感が残る。
「はー、やっと現場復帰したのか…良かったマイカちゃんが見れて…。」
「え、なに、どう言うこと?」
「うわっ!突然なんなの…。」
あの天使…マイカちゃんのことを口に出す山田は、俺が今まで彼女のことをテレビでも局でも遭遇しなかった理由を知っているかのような口振りで、思わず食い付く。それに驚く山田を相手にしている余裕はない。事実早よ。
「で!?で!?現場復帰ってなに!?」
「こんなに食い付く伊野尾ちゃん初めて見たんだけど、俺…。マイカちゃんは日本デビューしてから病気にかかって、芸能活動自体を一時休業してたんだよ。」
「そういうことか…。」
山田が言うには、彼女は病のせいで活動を休止し、休んでいたらしい。なるほど、だからどこにいても少女時代を見ても、彼女の姿を見ることがなかったってことか。理解。
彼女を見なかった理由が解ってしまえば、あとはどうでも良い。モニターに視線を戻し、少女時代のステージに食い入るように見つめる。ああ、天使はやっぱりかわいらしい。
「めっずらしい。伊野尾ちゃん、K-POPに興味なんてあったっけ?」
「特にないよ。でも、あの天使にはすーっげぇ興味ある。個人的に。」
珍しい、なんて言ってる山田は無視継続。やっぱりステージでも天使は天使だ。どうにかしてすこしでも近い距離になれないかな。別に恋人になりたいとか、そんなんじゃないけど。
日本デビュー曲は、日本人なら誰もが知ってるあの有名な曲。でも披露しているのはそれだけじゃないのに、彼女の不在がどの曲かも解らないレベルで完璧に見えた。すご。
「あーでも、伊野尾ちゃん、もしマイカちゃんと仲良くなりたいなら難しいと思うよ。」
「なんで?国が違うから?」
「そんなんじゃなくて…まあ簡単に言えば、事務所的な問題?」
「ふーん…。」
俺の考えていることが山田には解ったのか、先手を打つように釘を刺された。その理由は国籍とかじゃなくて事務所的な問題かなと曖昧に返されたけど、まあ確かに、うちの事務所で考えたらやっぱ難しいよなあ。残念。
男も女も、K-POPアイドルとJ-POPアイドルが付き合うなんて訊いたことないし。いやだから別に、恋人になりたいわけじゃないけど。
「俺もテミンくんと仲良くなりてー。」
少女時代のステージが終わるまで、モニター画面を占拠してる俺。そして誰に言ってるのかも解らない呟きをするのは、山田だ。うるさい、勝手に仲良くしてろ。