閑話休題 ( 4 / 4 )




「好き。」



目の前の男は、何を言っているんだろうか。



「…なんの話し?」

「なまえが好き。」

「会話する気ある?」



ウギョルの収録も終わり、僕にはもう仕事が残っていないからとマネージャーを待ちながら近くの椅子に座っていたときだった。
人も疎らで静かなこの場所にテグンが近寄って来たと思ったら、さっきの爆弾発言。
人が居なくて本当に良かったと思う。



「好き。」

「っ、何度も言わなくても、聞こえてる…!」



僕と言う人間は、不思議だ。
恥ずかしがり屋だからなのか、顔や耳まで真っ赤にしながらもテグンからまっすぐとした意思のある瞳を向けられ、「好き」だと言われ、心が跳ねて嬉しいとも思う。
けれどそう思う反面、冷静にもなれた。

やっぱり僕は、テグンのことが好きみたいだ。
言葉にしたくない、名前も付けたくない、だけど我慢したくなくなってきたこの感情は、曲がりなりにも愛情だというわけ。

もちろん、好きと言われて嬉しい。
好きだと思った相手に好きと言われて、嬉しくないわけがないんだ。

でも僕は、臆病で。
昔のように、そのときそのときの気持ち・感情のままに動くことがひどく恐ろしいと思った。



「テグン。それは本当に愛情なの?」

「…どういうこと。」

「僕たちが仮想結婚で夫婦になって、普通よりも近い距離にいるから…僕を好きなんだって思い込んでるだけなんじゃない?」



ミンスは、強気で、自信家で、何よりも強い人間であると思う。
それも僕自身ではあるけれど、なまえという僕の本心は、ひどく臆病だと思った。

いざ好きだと言われたら、脳裏に思い浮かぶのは過去の恋愛。
良いも悪いも、幸も不幸も経験した過去。

テグンの言葉が、ウギョルをやっているからこその思い込みだったなら?
ウギョルが終わってしまったら、現実に引き戻されて…そのあとはどうなる?

テグンの…彼らVIXXの未来は?

VIXXがデビューして2年しか経ってない今の状況で、僕が本当に恋人になり、それが世間に知れ渡ったらどうなると思う?
まだデビューして安定せず、未だ秘めた可能性を潰してしまうことになりかねない。
僕はそう思う。



「…本気で、そう思うのか?」

「……好きという感情を、思い込みだって否定したのは謝るよ。でも、その可能性もある。」



傷付いたように、悲しそうに歪む表情。
ごめんね、テグン。
僕だってキミに、そんな表情をさせたいわけじゃないんだ。

だけど僕は、キミよりも先輩で。
キミよりも長い年月、この世界を見ている。



「俺は本気でなまえのことが」

「だとしても!」

「っ、」



だから解るんだよ、テグン。



「今のおまえの置かれる立場じゃ、時期じゃないんだよ。誰も幸せになんてなれやしない。」



デビューして2年だなんて。
マスコミやスタッフも含めてみんな、粗や付け入る場所やらを欲している時期なんだ。

視線が鋭く集まる状況で密かに恋愛をしたとして、陽の下に出されるのは時間の問題。
僕はもう、そんなことで愛しいと思った人から離れたくはないし、傷付きたくもない。



「………もうちょっと、冷静になるんだね。」



それだけを告げて、僕はテグンに背を向けてマネージャーが来る場所に向かった。

ごめん、ごめんね、テグン。
僕もテグンが好きだよ。
僕こそ思い込みなんじゃないかって思って蓋をしようとしたけど、キミはそんな蓋も取っ払ってしまうし、好きだと返したくなったけど。

でも僕は、弱いから。
過去に傷付いた傷は完治することなく、前に進むことも出来ない足枷。



自信に満ち溢れ、Beautyを引っ張るいつもの僕の姿は、ひどく霞んで見えた。



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