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ウギョルの収録が2回目になる前に、僕とメンバーは社長に呼ばれた。
メンバーには心当たりはないけれど、僕にはまあ、一応心当たりはある。
どうせ、名前と国籍についてだ。
今ならどうにでもなる、とウギョルのスタッフも気を遣って事務所に連絡したんだろう。
まあ、僕とマネージャーのあんな大喧嘩を見たら、確認せざるを得ないよね。
「…なまえ、ウギョルの収録で自身の本名と国籍を言ったそうだね。」
「言ったよ。」
「はぁ!?」
「え、なまえ、なんで!?」
「あれだけ駄目って言われてたのに!」
社長室に行けば、重苦しい空気が流れる。
話しなら早く済ませれば良いのに、と思うのは僕だけなのか、社長は言い出しにくいのかなかなか口をわろうとはしなかった。
しばらくして、ようやく社長が本題に触れる。
本名と国籍を言ったそうだね、と言う社長の言葉を肯定すると、社長ではなくメンバーから一斉に攻撃を受けた。
ああ、もう。
煩いのは嫌いだ。
「静かにしなさい。…なまえ、どうしてあれだけ禁じた本名を公開したんだね?」
「僕は別に、今までの人生の中でやましいことなんてしていない。今までなら名前なんて公開されようがされなかろうがどうでも良かったけど、僕は仮想とは言えウソの名前で呼び合う夫婦なんかにはなりたくないよ。」
「そうか…。」
どうして禁じておきながらも本名を公開したのか、という社長の言葉に素直に返す。
本当に、今までは本名が公開されようがされなかろうが、特別興味は無かった。
だけどこれから僕は乗り気ではないにしろ、仮想でもテグンの妻となる身。
結婚した夫婦が偽名で呼び合うなんて、普通に考えてもおかしな話しだろ?
「僕は日本人だ。日本人の何が悪いの?ファンが左右すると言うのであれば、国籍なんかで惑わされるファンなんて、僕には要らない。どう足掻いたところで、僕が日本人だということに変わりないんだから。」
「なまえ…。」
「それに、僕自身を好きでいてくれるファンなら、国籍なんてもの関係ないでしょ?それでも嫌ならウギョルを降りても良い。BEASTだって辞めさせられても文句は言わないよ。」
「なまえ!!」
「お前何言ってんだよ!!」
この際だから、と僕は思ったことをすべて、包み隠さず社長に話した。
僕が日本人であることに変わりはないし、国籍なんかでファンが離れるのなら離れたら良い。
そしてこれは本心ではないけど…。
これが駄目だと言うのなら、僕はBEASTを辞めても良いとも続けた。
正直、BEASTはもう何年も活動している。
今さらこいつらと離れるつもりもないし、離れたくはないけれど。
今回はマネージャーの剣幕もあって、それくらいの覚悟は決めておいたんだ。
BEASTを辞めさせられても文句は言わない、と言えば騒ぎ出すメンバー。
社長はそんなメンバーを宥めて、僕のことをジッと見つめてきた。
「なまえ、今まですまなかった。お前の本名を隠していたのは私の判断だった。」
「それって…。」
「なまえがBEASTを抜ける必要はないよ。」
「はぁ…。良かった…。」
社長は、名前を公開させなかったことに対して一番に謝ってきた。
そんな社長を見たメンバーは、それって、と息を潜めて社長の言葉を待つ。
結論、僕は別にBEASTを辞めなくても大丈夫ということらしい。
それに関しては思わず安心してしまったけど、あまり大きなリアクションは取らなかった。
「だけどなまえ。私がおまえの本名を公開しなかったことにも理由がある。」
「理由?国籍のこと?」
「違う。国籍よりも…私はおまえが芸能界から消されることを恐れて隠していたんだ。」
社長の言葉には、僕も思わず衝撃を得た。
僕が芸能界から消される?
それは、どういうことなんだ?
「なまえの履歴書を見て、親族の名前を見たら流石に解った。おまえの兄が日本で有名な事務所のアイドルなんだと。」
「なまえのヒョンがアイドル…!?」
「長男はアイドル、次男は俳優。私はなまえの才能を発揮出来るBEASTに留めたくて本名を隠した。本名を晒せば顔が似ているおまえの兄弟が明かされ、事務所はおろか、おまえもコネだなんだと叩かれる良いネタにされるからだ。」
社長の言葉に、なるほどね、と思った。
けれどそれと同時に、やっぱり事務所の勝手な都合じゃないか、とも思ったんだ。
確かにレオ兄はひとまず置いといてもジン兄は日本では当たり前に、韓国でも認知度が高い。
上手くいけば話しのタネにはなるが、下手をすれば社長の言うように叩かれるネタにもなる。
BEASTがデビューした当初。
日本人を受け入れる人々は少なかった。
今思うと練習生時代からずっと本名を隠され、こうしてBEASTを組んでからBEASTとデビュー組にだけ本名を明かされている。
それにはそんな理由があったのか。
僕はただ、国籍に不満があると思っていた。
「まあ、自由ななまえのことだ。いつか自ら話すとは思っていたから許容範囲内だよ。」
「社長…。なまえがすみません…。」
「構わないさ。それよりも、今後のファンの反応に備えておくんだ。万が一のことが起こり得るかもしれないからね。」
社長はいつものように、なまえだから、と軽く許してくれた。
ドゥジュンが心底安心しているのが解る。
これは、ドゥジュンに怒られるんだろうな。
ドゥジュンが代わりに謝ったあと、社長は真面目な顔で今後の対応について話した。
確かに、BEASTはデビューしてからもう5年という月日が経過している。
となると黙っていた期間が長いからこそ、過激になってしまう人も出て来るかもしれない。
だけどもちろん、僕はそれも想定済み。
ああは言ったものの、そう簡単に全員が全員受け入れてくれるとは思っていないからね。
「もちろん。」
「なまえは俺たちが守ります。」
「怪我だってさせません。」
「なまえには僕たちがついてますから。」
社長の言葉に、強く頷くメンバー。
僕を守る?
キミたちが?
…大丈夫だよ。
僕はひとりでも弱くないし、キミたちは普通よりも接近距離を許している人たちなんだ。
もしも耐えられなくなったら…頼るさ。
もう、昔の僕じゃない。
キミたちBEASTを頼り、彼ら全員を受け止められるくらいには成長している。
それは月日が信頼に変えてくれたからだ。
「僕は守ってもらわなくても平気だよ。辛くなったら勝手に頼らせてもらうから。」
僕がそう言うと、BEASTのメンバーも社長もみんな、優しく微笑んだ。
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