お花畑でステップ
似合わない。それは知ってるけど、これがぼくに出来る最大限だから仕方ない。何度鏡を見て深く溜息を零したことか。
「……………なまえ?」
「…おはよう、ございます。グーグ…。」
そろり、そろり。普段も煩いけど、何故かぼくのことになると殊更煩くなるメンバーが起きないよう、静かに玄関に向かう。時間もわりと早いし、誰も起きてないよね?
そう思っていたのに、現実は甘くはなくて。こっそり部屋の扉を閉めた瞬間、トイレにでも行っていたのか、ハンお兄さんに見つかってしまった。ハンお兄さんは優しくて、基本知らないふりなんかもしてくれるけどたまに母親の如く口煩いときもある。
今日はどっちに転ぶのだろうか。どうか知らないふりをしてくれるハンお兄さんであってくれますように。びっくりし過ぎて思わず敬語だったことには触れないでほしい。
「…もしかして、デート…はないか。グッズとかいうものを買いに行くの?」
「まあ…友だち、と。遊ぶ約束してて…。」
「………そっか。気を付けろよ。」
「うん。」
怪しまれた、だろうか。ぼくに友だちは居ないことくらい、メンバーなら知ってる。むしろ友だちはジョンインとテミンとムンギュ兄さんくらいだ。でも、追求してこない。
デートの線を簡単に捨てられて苛立ちはあったけど、追求してこないパターンのハンお兄さんであってくれて安心した。ごめんねハンお兄さん。ないか、って切り捨てたそのデートに行ってくるよ。
ハンお兄さんがデートかと一瞬でも考えたのは、ぼくの服装が原因だろう。
一度だけやった、某星座ゲームの女の子のウィッグをカットして普段用にセットしてかぶり、服もヒチョルお兄さんやグンお兄さん、ジョンス兄さんに渡されたワンピースなんかを着ているから。こんな格好、普段のぼくなら絶対にしない。
でも、ジョンウンお兄さんに、かわいいって言われたいから。常に言ってくれるけど、やっぱり女の子としても、ジョンウンお兄さんからかわいいって言われてみたい。
「…なまえ?」
「お、遅く…なっちゃった…。」
朝早く、とは言っても、ジョンウンお兄さんとの待ち合わせの時間はいたる店がオープンしている時間で。宿舎を出るときもファンや記者は居たけど、ぼくにはまったく誰一人として気付かなかった。気付かれると思って慎重に出たけど杞憂だったし、無駄に時間だけを取られてちゃったから…。
急いで到着すると、そこにはもうジョンウンお兄さんが居た。慌ててお兄さんの方に駆け寄ると、お兄さんはぼくを見るなり口をポカンと開けて驚いている。ちょっとかわいい。
「珍しいな。そんな格好。」
「うん、まあ…。」
「かわいい。すごくかわいい。」
「!」
ファンや記者でも気付かなかった変装に気付いてくれただけで、嬉しい。ハンお兄さんは気付いて当然だからノーカンだよ。
ぼくを見て珍しい、と言うジョンウンお兄さんの言葉に、歯切れ悪くも返す。珍しい格好をしたのは、ジョンウンお兄さんにかわいいって思ってもらいたいからだよ、なんてぼくには言えるわけがない。
でも、ジョンウンお兄さんはすぐにぼくが欲しかった言葉をくれた。優しく頭を撫でるオプション付きで。これが乙女ゲームだったら確実にハッピーエンドルートへの当たりの選択肢になるよ。好感度上がりまくりだね。
「…へへ。オッパに、かわいいって言ってもらえた…良かった…。」
嬉しくて嬉しくて、微笑みが溢れる。ジョンウンお兄さんは一瞬目を見開いて口元を押さえたあと、顔を真っ赤にして目を逸らした。
理由は解らないけど…ジョンウンお兄さんでも、人から目を逸らすことあるんだね。