お手をどうぞ、お姫様




湧き上がる歓声、盛り上がる場内。その景色を見ていると、普段は"ああ"であっても先輩という存在はすごいんだな、と実感する。

ステージに上がれば、鼓膜を引き裂かんばかりの黄色い歓声に掛け声。ぼくもいつか、ああいう風に歓喜の声を向けられるだろうか。



「なまえ、そろそろ出番だから…。いつも通り、あたしの王子様として、よろしくね?」

「はい、もちろんです。」



ぼくは今日、EXOとしてではなく、ボア姉さんのパートナーとして出演する。いや、もちろんEXOとしても出演するんだけど。

ボア姉さんのパートナーとなるのは、恐らくこのライブじゃ名物になっているオンリーワンという曲目。確かヒョクチェ兄さんやテミンが過去にパートナーを務めていた。それが今回、ボア姉さん直々のご指名で相手のうちのひとりにぼくが選ばれたらしい。

まさか、ぼくが選ばれるなんて。ボア姉さんからその網を伝えられたときは、信じられなくて社長や代表に確認したほど。だってぼくは、みんなが望む"オトコ"じゃない。

だから簡単には信じられなくて。何度も疑ったけど、これもまた、揺るぎない事実で。結局は「任されたから」ということで無理矢理納得して練習したんだけど。ボア姉さんのパートナーがぼくなんかで、本当に大丈夫なのかな…。不安で仕方ない…。



「わあ…。」



今回はダンスだけだから、もちろんマイクはつけていない。だから思わず溢れた声も、慌てて抑える必要はなかった。

練習生の頃、何度かバックダンサーとしてこのライブに携わって来たし、去年からは出演者として関わって来たけど。やはり、何度見てもボア姉さんのカリスマ性とそれに魅せられたファンを見たら感動する。

ボア姉さんの言う通り、ぼくはいつも通りのスタイルで踊れば良い。理由は理解し難いにしろ、王子様と呼ばれるルックスを持ち、男ばかりのEXOでジョンインには劣れどもメインダンサーとして立ってるんだ。あとは自信を持ってステージに立てば良い。



「………え?」



1番の歌が終わり、ぼくがステージに上がると歓声が届いた。どういう意味かは解らないけれど、ぼくもステージに立てば歓声を貰えるくらいにはファンがついたらしい。

それに嬉しさを感じながら、足元ばかりを見ていた視線を上げてピタリと止まる。振り付けで止まったわけじゃない。これはまさに、動揺して止まっているんだ。



「早く、続けて。」



流れる歌声は、確かにボア姉さんのものなのに。目の前に立つのは、2年越しに会うことが叶った、だいすきな人。

そう言えば、ボア姉さんにはぼくがまだ練習生だった頃に付き合っていることがバレてしまっていたんだっけ。つまりこれは、数少ないぼくとお兄さんの関係を知る人であるボア姉さんからのサプライズ…ということ?

男性側で振り付けを覚えていたのに、お兄さんがそっちを踊るから。ぎこちないなりに、何度も見ていたうちに覚えたボア姉さんのパートを踊る。お兄さんこれ、踊れるの?



「オッパ、いつの間に練習してたの?…いや違う、いつの間に入れ替わったの?」

「質問ばっか…。…俺も、なまえとステージに立ってみたかったから。ボアに頼んだ。」

「…え?」



短いステージが終わり、後ろで待機していたボア姉さんと入れ替わるように捌けたぼくとお兄さん。裏に入った瞬間、お兄さんを捕まえて理由を問いただせば、お兄さんはすこし困ったように微笑んだ。

どうやらこれは、ボア姉さんのサプライズとかじゃなくて、お兄さんからボア姉さんに頼んだからこそのことらしい。嬉しそうに「デビューしたなら、これからはステージにふたり一緒に並べるな」なんて言うんだからぼくの気持ちが追い付かない、追い付けないよ。



「お手をどうぞ。俺のお姫様。」

「…むぅ。」



あれはお兄さんが計画したこと、ならフォローは誰がしてくれたの?社長たちを納得させるために、お兄さんはどんなことを言ったのだろうか。ぼくたちの関係は、社長やファンたちにバレていないだろうか…。

ボア姉さんの提案であれば、姉さんなら上手く誤魔化してくれると思ったけど。でも、お兄さんの提案なら不安しかない。そんなことを言ったらだめなんだろうけど。

ファンや社長にバレていたらどうしよう、と頭を抱えているとき、空気を読まないかのように言われたのはクサいセリフ。何も考えていない、能天気そうなお兄さんには腹が立つけど、幸せそうなお兄さんの顔を見たら何かを言う気にはなれなかった。

グンお兄さんやヒチョルお兄さんにも言われるんだけど。ぼくってジョンウンお兄さんにすごく甘いよね。知ってた。

人気のない場所で差し伸べられた手を取って行き着いたのは、だいすきなジョンウンお兄さんの腕の中。その温もりがあるだけで、ぼくはすごく幸せな気持ちになる。




ALICE+