毒のついた白百合
ーーー中毒。ある種の物質を体内に摂取することにより、機能障害を起こすこと。
「タイトル通り、中毒性のある曲だね。」
そう言ったなまえは、美しかった。そんななまえに「おまえにも中毒性があるよ」と言いたかったのを、グッと押し込む。どうせ本人に言ったところで伝わりやしない。
今回俺たちEXOがカムバックする曲のタイトルは、中毒。別に中毒性がある歌だという意味でつけられたタイトルではないと思うが。
まだ振り付けも写してないし、パートだって正確なものをもらったわけじゃない。でも、音源のデモは貰っていたからみんなで聴いていたんだけど。なまえの感想はそれだった。
「きっとみんなかっこいいんだろうな…。ぼくも、かっこよくなれるかな…。」
みんなかっこいいんだろうな、なんて。そんなことを言っているおまえが一番ビジュアルが良いんだって、解って言っているんだろうか。…いや、解ってないな。
今はデビューした頃の、あのときとは状況が変わっている。アンチの酷さに心を痛め、文字通り心身ともに疲労困憊だったなまえはもう居ない。自身を非難する人間と逃げずに立ち向かい、なまえは強く、逞しくなった。
あくまでも俺の憶測に過ぎないけど、なまえは自身が求められている立場と言うものを理解して、生み出したんだと思う。元々ファンがいなかったわけじゃないにしろ、今ではアンチはいてもなまえを愛するファンがアンチよりも多く存在していた。
「ぼくはね、ハングーグみたいな、少女漫画に出て来る本当の王子様になりたいの。」
遠い昔。まだ、EXOとしてデビューしていない、だけどEXOの名前を貰っていた時期。なまえは俺に向かって、そう呟いた。
そう言えば、中国語では一人称を"私"とし、女性らしい話し方だったのに。この頃からはいつの間にか中国語で話すときも、"ぼく"という一人称に変わっていたんだっけ。
それだけ、なまえが王子と呼ばれることに慣れ、王子でなければEXOに居られないと思いつめたということなのかもしれない。当時は深く考えていなかったけど、今思うとこいつはどれだけの覚悟を背負ってここまで走って来たのか…知りたくもなる。
「なまえは充分かっこいいよ。」
「うん、クリスよりかっこいい!」
「ヤァ、タオ。」
「ふふ…。そうだといいなぁ…。」
中国組みが過ごす宿舎でも、常に韓国語が飛び交うようになって来た。それだけ俺たちも韓国語に慣れて、その言葉を使うことが当たり前だと思うようになってきたんだろう。
俺が「充分かっこいいよ」と言えば、タオもそれに続く。タオの言葉が気に入らなかったらしいウーファンは口を尖らせるが、そんなことをしてもかわいくないからやめてくれ。
そんな光景を見て、「ふふ」と笑うなまえ。
この曲に中毒性があるのなら、おまえの存在だって、充分中毒性があるよ。綺麗な薔薇には棘がある、なんてレベルじゃない。そうだな…例えるなら、毒のある華。なまえの白い肌みたいな、白百合が良い。
白百合に塗りたくられた毒を吸収して、抜け出せなくなった人間はきっと多いと思う。それは俺たちだって然り。なまえが折れてしまえば、俺たちだって崩れる。
「ぼく、王子様だもんね。」
綺麗に微笑むなまえ。きっと今も、なまえからは毒が出てる。そしてそれを、ここにいる俺たちは全員吸収しているんだ。
この華が折れなければ良い。永遠に、俺たちの元で、美しく咲き誇ることを祈る。