こいびとごっこ

あたしは、男の子が大の苦手だ。
と言うよりも、歳が近く、派手目な男の子を苦手としていた。

理由は簡単。
見た目から来たもの。



過去に太っていたあたし。
悔しくて悔しくて、ダイエットをして。
可愛くなったと言われるようになったけれど、もともと派手なメイクや服装を好んでいたせいなのか、よく居る遊んでる女の子、として見られるようにもなった。

無論、そんなことはない。
太っていた時期、男子から散々からかわれたトラウマなのか痩せてからも恋人と言うものは出来ず、友人の周りの男が最低な人間が多いせいか、この歳になっても恋人が欲しいとすら望まなくなってしまっていた。

痩せて少し見栄えが良くなれば、男たちは簡単に声を掛けてくる。
そんな軽さを感じさせる、派手目で歳が近い男たち全般に嫌悪感を抱くことは、そう不可能なことでは無かった。



別に、恋人が居ないから、となにかデメリットが生じるわけではない。
もしデメリットがあるとするなら、女の子特有の恋バナ、というものに追い付けないということくらいで、あとは特別無いだろう。

だから、そのまま放置していた。
そんなある日、あたしは趣味のダンスをストリートで披露していたら、とある事務所にスカウトされたのだ。

T.S.Entertainmentの者です。

そう告げた、黒のスーツできっちりと身を固める男の言葉を上手くかわすことが出来ずに、あたしは結局、なんとなくでその事務所の練習生となってしまったんだ。
歳もいっているはずなのに、練習生としてのらりくらりと適当にデビューを待っていたとき、ある話が舞い降りて来た。



『Secretとしてデビューする。』



社長に呼び出されたある日のこと。
社長室には、練習生になってから親しくなった同い年のヒョソンを筆頭に、ソナ・ジウン・ハナの姿があった。

そこで発表されたのは、Secretとしてデビューする、という話。
もちろん4人は喜んでいたけれど、内心、あたしの心境は複雑だった。

特に努力して練習していたワケでも無い。
なにかを諦めてまで練習していたワケでも無いのに、こんなあたしがデビューしても良いのだろうか、という複雑な心境。

結局あたしはそのままSecretのメンバーとしてデビューし、長い月日が経過していくのをただ淡々として眺めていた。



『やっぱり過去には辛い恋愛など、経験されていたんですか?』



この手の質問は、苦手事項だった。
ヒョソンたちは普通に話せているのに、あたしはそれをただ真面目に返すことしか出来なければ、特に面白いエピソードですらないことを言わなければならない。

彼氏なんて出来たこと無いです、と言ったところで、司会の人々はみんな同じことを口にするだけだった。

"まさかそんなわけないでしょう。"

これを、先入観、と言うのだろう。
誰もあたしが太っていたことを想像することが出来ないから、なのか。
男ならまだしも、女性が過去の醜い姿を晒すことは公表されていないにしろ、タブーであることに違いは無かった。

だからこそ、そんなわけない、とあっさりと否定されてしまうのだ。
それが悲しくない、と言えば嘘のようにも思えるが、あながちそれは、嘘でもなんでも無いかもしれない。

そんなことならもう、彼氏を作り上げ、適当に話すべきなのだろうか。
いや、そんなことをしても、いつかはボロが浮き出てくる。
となると、やはりそんなでまかせを口にするのは不可能に思えた。



「…恋愛、してみたいなぁ…。」

「だったら、俺でやってみる?」

「!」



番組の収録を控え、テレビ局に来ていたあたしたちSecret。
他のメンバーは楽屋に居るけれど、あたしは楽屋をこっそり抜け出して外に置いてあったベンチに背中を預けていた。

どうせまた、恋人についてなにかしら訊かれてしまうのだろう。
テレビ側もあたしの答えが気に入ったのかそうじゃないのか、ことごとく恋愛についてを訊いてくるようになった。

それならばいっそのこと、恋愛すれば良いのかもしれない。
だけど相手がいない。

そんなモヤモヤを吐き出すように、恋愛してみたいなぁ、とひとりで口にすれば、返ってきた予想外の言葉。
慌ててそちらに顔を向けると、そこにはふにゃっと微笑んだ、最近デビューしたばかりの後輩であるBAPのチョン・デヒョンが佇んでいたのだ。

今日はBAPーも一緒だったのだろうか。
それよりも、他のメンバーはどうした?

いろいろと疑問には思うものの、先程の軽率とも思える言葉が引っかかって、そんな疑問さえ口にすることが叶わなかった。
あたしが苦手とする、少し派手目で歳が近い男の子…まさに、チョン・デヒョン。



「…生意気。」

「でも俺、付き合ってもなまえヌナに損させない自信あるよ?」

「…つまんなかったら、すぐ別れるから。」

「良いよ、それでも。」



急なことに混乱していたあたしは、生意気、としか言うことが出来なくて。
デヒョンに生意気だと言えば、デヒョンはさらに生意気な笑顔で、生意気なことをさらりと言ってのけてしまった。

…まさか、年下に…。
後輩グループのメンバーに、このあたしが振り回されるなんて。

これからもっと、振り回されるかもしれない。
だけどそのことに気付くことはなくて。
デヒョンとあたしの、ちぐはぐな関係が今、始まった。






こいびとごっこ

今日から始まる、おままごと。



(ヌナ、今度デートしようよ。)

(…夜なら。)

(夜で良いよ。なまえヌナに合わせる。)

(…ん。)



少しずつデヒョンに惹かれて行くのは、また別のお話で。

prev / next
ALICE+