空は青く澄んでいるのに、わたしの心は晴れてもくれなければ澄んでもくれない。

ずっと引っ掛かっているのは、夢のように繰り返し見ている…誰かとのやり取りのこと。
誰とのやり取りだったのかを思い出したいのに、それを妨げるかのように激しい頭痛が襲って来る。

思い出してはいけないものなのか。
それとも…わたし自身が思い出したくない、と拒んでいるのか…それは定かではない。



「じゃあなまえ、また来るわね。」

「うん。待ってる。」



今日もお見舞いに来てくれていたメンバーのみんな。
テレビや服装、メイクを見ていたら忙しいことは解る。
だけどこうして、毎日のように来てくれることがとっても嬉しかった。

それはもちろん、SECRETだけではなくBAPだってそう。
一時期はもう来てもらえないと思っていたジュノンも、再びひとりででも来てくれるようになった。

少し壁はあるような感じだけど…。
それでも、また来てくれていることが嬉しかったんだ。

外の景色を眺めていると、コンコンと扉がノックされる。
SECRETが帰ったと思ったら、また別の人がわたしのお見舞いに来てくれたらしい。
BAPかな?、なんて思いながら、どうぞ、と言えば…そこには予想外の人が立っていた。

…この人、誰…なんだろう。



「…あ、その…なまえ…。オレ、のこと…解る…?」

「えっと…わたしを知ってるんですか…?ごめんなさい、わたし、あなたのこと解らなくて…。」



お見舞いに来てくれたのは、今までに見たことがない人。
見たことがない、と言うよりも、会ったことがない人、の方が言い方としては正しいかもしれない。

多分、だけど…この人は前にテレビを観ていたときに映っていた…えっと確か、BEASTかな?
そこのグループのメンバーさんだったはずだ。

だから見覚えはなんとなくあるけれど、名前も何も知らない。
相手はわたしのことを知っているみたいだから失礼だとは思うけど…黙っていても仕方がないから、正直に記憶がないのだと口にした。

すると見開かれる彼のくりっくりの丸くて大きい瞳。
彼は驚きの表情を見せたあと、思い詰めたような…とても悲しそうな表情を浮かべていた。



「そっか…。じゃあ、オレのこと…覚えてないんだよね?」



………でも、どうしてだろう。



「あ…す、すみません…。」



どうしてこんなにも、冷や汗が出て来るんだろうか。



「ううん、謝らなくても大丈夫。俺の名前はヤン・ヨソプ。」



心臓の鼓動が早まって、そして、ドクッと脈を打った。



「ヨソ…プ…?……っ!?」



震えそうになる身体を必死で抑え込み、平常心を保つ。
普通にしていないと……壊れてしまうような気がしてしまったから。

オレのこと…覚えてないんだよね、と悲しそうに訊いてくる彼を見ていると申し訳なくて。
ごめんなさい、と謝ると、謝らなくても大丈夫なのだと言ってくれた。

こんなに優しい人を、わたしはどうして忘れているんだろう。
きっと事故前からも優しく接してくれているはずなのに…わたしって本当に失礼だよね。

そんなことをひとりごちていると、彼の口から飛んで来た言葉に今度はわたしが目を丸くした。
"ヤン・ヨソプ"と彼ははっきりと淀むことなく確かに口にしたんだ。
だから聞き間違えるなんて有り得ない、んだけど………ヨソプ…?

ヨソプ…、と呟いた瞬間に襲ってきた激しい頭痛に頭を抱き抱える。
ヨソプさんはわたしが名前を呼ぶと嬉しそうにはしてくれたけど、わたしが痛みで頭を抱えてからは慌てたように近寄り、介抱してくれた。

どうして、こんなにも頭が痛んでしまうんだろう。
わたしはただ、ヨソプさんの名前を呟いただけなのに。
確かに過去のことを思い出したあの一瞬のとき、わたしはヨソプさんの名前を口にはした。

だけど彼はわたしと、深くは関係ないかもしれないのに…。
どうしてこんなにも痛むんだろう。



「っ、ぅ…っ!」

「どうしよう…。な、ナースコール押した方が良い…?」

「退いてください!」

「!?」



駄目だ…余計なことを考えたら、頭痛はどんどん激しさを増していく。
もう無心でこの痛みに耐えるしかない、と覚悟を決めたとき。

痛みに苦しむわたしを見て慌てているであろうヨソプさんを恐らく下げさせて、今ではもう心地の良いとしか思えない声が近くに降ってきた。

なまえヌナ…大丈夫ですよ、と優しくわたしの身体を包み込みながら告げるジュノン。
ジュノンが与えてくれる温もりに安心したのか、少しずつ落ち着きを取り戻し、頭痛も治まってきた。



「ジュノン、ありがとう。…?ジュノン?どうしたの?」

「あ…いえ、なんでもないです。もう大丈夫なんですか?」

「うん、もう大丈夫よ。ごめんね、迷惑かけちゃって…。」



落ち着いたと解ったのか、ジュノンがわたしから離れる。
それが少し寂しいような気はしたけど、何も言えない。
わたしたちは恋人とかではない…から、駄目なの。

落ち着かせてくれたジュノンにお礼を言うが、ジュノンはわたしではなく違う方を見ている。
ジュノンの視線を辿れば、行き着いたのはヨソプさんの顔。
ジュノンがヨソプさんを睨むように見ている意味も解らないけど…ヨソプさんは申し訳なさそうな表情をしていて、さらによく解らない。

どうしたの?、と訊いてもジュノンにははぐらかされるだけ。
そしてジュノンは、今日は早めに戻りますね、と言って何故かヨソプさんと病室から出て行ってしまった。

どうしてヨソプさんと?
いつもはもっと居るのに、どうしてそんな早々と帰ったの?

思うことはいろいろあるけど、イマイチ状況が整理出来ないわたしは何も言うことが出来なくて。
ジュノンがヨソプさんと一緒に出て行った扉を、ジッと見つめた。






突然の来客


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