ああ、どうしよう。
すごく腹が立って仕方がない。



「…ヒョソニヌナから訊いたんですよね?なまえヌナが今、記憶喪失なんだ…って。訊いたんですよね?」

「訊いたよ。…でもオレだってニュースを観て心配したから…忘れられていても良いから見に来たんだ。」



ああ、すごく腹が立つ。
腹が立って…仕方がない。

何も知らなかったヨソプさんが。
なまえ姉さんを大切にすることが出来なかったヨソプさんが。

なまえ姉さんをボクから…っ、奪ったヨソプさんのことが…。

こんなもの逆恨みだ、なんてボクも充分解っている。
ヨソプさんのことはなまえ姉さんが選んだんだし、恋人の枠に選ばれなかったボクが悪いのに。
それなのにボクは、これみよがしにとヨソプさんのことを責めた。



「どうして今さら来たんですか?」

「………それを言う必要、ある?」



ボクの言葉に表情を歪ませていたヨソプさん。
だけど、どうして今さら来たんですか?、という問いに対して、彼は冷たく応えた。

言う必要があるか、と言われたら、ないだろう。
あれはヨソプさんとなまえ姉さんの問題だから、外野が口出ししてはいけないこと。

そんなヨソプさんに、思わずボクも言葉を失ってしまった。
いや…返す言葉が見つからなかったというのが正しいか。



「…なまえはすべてを知っていた。だからリスタートしたくて来た。これで良い?」

「っ!なまえヌナとやり直す、ってことですか…。」

「オレは、なまえとやり直したいって思ってる。だから、昨日で全部ケジメをつけてここまで来たんだ。」



ヨソプさんの目は、まさに真剣そのものだった。
いつものあの…なまえ姉さんを周りの危害から守っているような、そんな意思の強いボクの苦手な眼差し。

リスタートしたい、と言うであろうとはなんとなく想像出来ていた。
今さらそんなこと言わないでください、とか、どうして傷付けたのにやり直そうと思えるんですか、とか。
言ってやりたいことは山のようにあったはずなのに…あの瞳のせいで今度こそ言葉に詰まってしまう。

ボクが黙ると、話は終わり?、と口にしてすぐ、ヨソプさんはボクの横をスッと通り過ぎて行った。
きっと…ヨソプさんはまた、なまえ姉さんを取り戻すだろう。
でも、だけど…ボクはもう、傷付いているなまえ姉さんを見ていたくはないし、指を咥えて大人しく見守るだけなのも嫌なんだ。

だからボクも、抗っても良いよね。

神様。
もし居るのなら、なまえ姉さんを…ボクにください。






動き出す歯車


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