どうしてだろう。
この前来てくれたヨソプさんのことが…すごく気になる。
だけどわたしの身体は何を拒否しているのか、ヨソプさんのことを考えたりすると警告のように激しい動悸や頭痛に苛まれるんだ。
動悸だって、恋とか愛とかの可愛らしいものじゃない。
まるで心臓などを掴まれ、呼吸困難に陥れられているかのような…そんな錯覚をさせられるレベル。
ヨソプさんのこと、気にはなる。
自分の身体がこんなに拒んでいることも、どうして彼を見ると…泣きそうになってしまうのかも。
全部気になる。
あの日。
会ったときは解らなかったけど、あとで気付いた。
激しい頭痛などに襲われたあとにやってきた、まるで家族を失ってしまったかのような悲しい感情がわたしの頭を支配して来たことに。
何が悲しいのかも解らないし、どうして彼を見ただけで涙が流れそうになるのかも解らない。
誰かわたしと彼の関係を教えて…?
「おっはようなまえ!」
「きゃっ!ひょ、ヒョソナ…。」
「こら。飛び付かないの。」
「はーい。」
なんとなく外を眺めていたら、注意力も散漫していたらしい。
後ろから忍び寄るように急にガバッと思い切り抱き着かれて驚くけど、声ですぐに解った。
抱き着いて来たのはヒョソン。
そして来てくれたのはヒョソンだけでなく、他のSECRETのメンバーも揃っていた。
いつもと同じ、いつもの会話。
なんてことのない日常的な会話はもちろんのこと、近況報告とか…最近では復帰したときのスケジュールで決まったところを教えてもらったりもしている。
そんな会話の中で、ふと思った。
ヒョソンたちにわたしとヨソプさんの関係を訊いてみれば良いんじゃないか、と…。
同じメンバーだし、雰囲気的にも親身になってくれる仲間だから…きっとわたしも話しているはず。
だからみんなも解ってくれているはず…なんだけど…。
「あ、のね…。えっと…。」
「どうしたの?なまえオンニ。」
「何?訊きたいことでもあるの?」
「あ……ううん、なんでもない。」
「そう?変なオンニー。」
解ってくれているはずなのに、いざ訊こうとしてみても言葉は続いて出て来ない。
そんなわたしを不思議そうに見て来るハナ、ソナ、ジウン。
不思議そうに見て来るものの、あまり興味はないのか…それとも言わせようと思わないのか、特に追求することなく終わってくれた。
どうして訊こうと思うことが、こうも上手く口から言の葉として出て来てくれないのだろう。
ジュノンとの関係でさえもさらりと訊けたのに、どうして…?
やっぱり、身体が……わたし自身が拒否しているのだろうか。
彼との関係を知ってはいけない。
深入りしてはいけないのだ、と。
「なまえ。」
「どうしたの?ヒョソナ。」
気になるのに考えられない、訊くことの出来ない歯痒さが腹立たしい。
わたしはこのままずっと、何かを疑問として抱きながら生きなければならないのかもしれないのかと思うと嫌で嫌で堪らなかった。
思わず俯いて歯をくいしばっていると、ヒョソンから名前を呼ばれる。
それに応えるように顔を上げると、ヒョソンはなんだか辛そうな表情を浮かべながらわたしを見ていた。
その表情は…どういうこと?
どうしてヒョソンは、そんなに悲しそうなの?
「無理しないで。お願い。身体を壊すなら…思い出そうとしないで。」
「え…どういう」
「時間。タイムアウト。はい次の現場行きまーす。」
「ちょ、マネージャー!早過ぎ!」
ヒョソンはただ、無理しないで、と真剣な表情で告げた。
思い出してはいけない、だなんて。
どういうこと?、と訊こうとしたのに、タイミング悪くマネージャーが彼女たちを迎えに来た。
みんなワーワー騒ぎながらも、回収されるかのようにマネージャーに引っ張られている。
もう少し話したかったのにー!、と騒ぐ年下ふたりは本当に可愛い。
4人に手を振って見送っていると、マネージャーがくるりとわたしの方を向いて、何か言いたそうな表情を浮かべていた。
なんですか?、と訊く前にマネージャーが口を開く。
「焦らなくて大丈夫だから。思い出さなくても良いの。世の中、知らない方が…思い出さない方が、自分にとって幸せなときだってあるわ。」
「幸せな…とき…。」
マネージャーは意味深な言葉を言うだけ言って、彼女たちを病室から追い出してしまった。
ヒョソンの言葉も、マネージャーの言葉も…よく解らない。
つまり…思い出さないでいてほしいということなのだろうか。
解らないけど、彼女たちがそう言うのなら…深く訊くことも、思い出そうとすることも止めておいた方が良いのかもしれない。
みんなに手を振って見送ると、急に寒気が襲って来た。
それと同時に襲って来る、今までとは格段に様子の違う頭痛。
「っ、く…!」
「なまえヌナ!?」
激しい痛みに、意識が朦朧とする。
少しずつ薄れていく視界の隅で見えたのは、ジュノンの姿。
わたしの名前を呼んだジュノンの声に反応することも出来ないまま、わたしの意識は途絶えていった。
薄れて行く意識
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