久しぶりにちゃんとした時間が取れたから、少し早めになまえ姉さんのお見舞いに来た。
なまえ姉さんの好きなお菓子だって忘れずに買ったし、喜んでくれると良いんだけど。
ノックをしてみるけど、なまえ姉さんから返事はない。
不思議に思って扉を開けると、そこには苦しむように頭を抱えているなまえ姉さんの姿があった。
「なまえヌナ!」
なまえ姉さんはボクの顔を見たあとすぐに、まるで死に行くようにそのまま倒れ込んだ。
そんな姉さんを見て、ボクの顔から血の気が引いていく。
慌てて駆け寄ってなまえ姉さんの身体を軽く抱き上げると、規則正しい呼吸が耳に届いて来た。
良かった、死にはしていない…。
倒れるように意識を失ったなまえ姉さんをちゃんと寝かせて、布団も身体に掛ける。
この事態に戸惑い、ナースコールを押すかどうか迷っていると入り口の方で"ガタン"と物音がした。
「っ…よ、そぷさん…。」
「なまえ…!」
入り口に立っていたのはヨソプさんで、ヨソプさんは大きくて綺麗な花束を持っていた。
それは…"懺悔"のつもりで持って来たもの、なのだろうか。
ヨソプさんは倒れ込んだなまえ姉さんの姿を見たのか、まるでさっきのボクのように血相を変えてこちらへ駆け寄って来た。
ヨソプさんの表情は心配に溢れた表情になっていて、まさにその顔からは血の気が引いている。
何度もなまえ姉さんの名前を呼ぶヨソプさん。
だけどボクは、そんな行動ですら気に入らなかった。
なまえ姉さんをここまで追い詰めたのは、紛れもなくヨソプさん。
怪我は別の人から負わされたものと言えど、彼があんな裏切りをしなければ…姉さんだって、今も笑っていられたはずなのに。
ボクが言える立場ではないけど、ヨソプさんがなまえ姉さんを心配する権利なんてもの、どこにも無い。
「早く医者を…!」
「なまえヌナは今、眠っているだけです。だから…大丈夫です。」
「そ、か…。」
早く医者を、と言うヨソプさんに冷たく大丈夫だと言えば、ヨソプさんは安心したように表情から一気に力が抜け落ちていた。
そんな些細な行動ですらも苛立ってしまうボクは…ものすごく、心が狭いのかもしれない。
ヨソプさんはなまえ姉さんの側にある簡易イスに座り、なまえ姉さんの頭を優しく撫でる。
そんな景色を見ていると、胸にジリジリと焼き付く…嫌な感情。
触ルナ
離レロ
ソンナ目デコノ人ヲ見ルナ…!
「っ!?」
「…触らないで、ください。」
ああ、そうか。
これが"嫉妬"なるもの…か。
姉さんに触れる手を掴み上げ、ヨソプさんの手を無理矢理になまえ姉さんから離れさせる。
ヨソプさんは一瞬驚いたあと、眉間に皺を寄せた。
なんだよ、とでも言いたそうにしているヨソプさん。
だけど今のボクには"嫉妬"と、それから先輩に"こんなこと"をしてしまった失礼な動作の"戸惑い"でもっとも失礼な、ヨソプさんのことを睨む行動しか出来なかった。
「なまえヌナに、触れないでください…。………もう、ヌナはあなたの想う…あなたを想っていたなまえヌナじゃないんですから。」
そうだ、もう、違う。
ヨソプさんを想っていたなまえ姉さんは居ない。
居るのは、何もかもを綺麗にリセットしたなまえ姉さんだけ。
もうなまえ姉さんに、悲しそうな表情をしてほしくない。
ボクに悲しそうにヨソプさんのことを話すなまえ姉さんには、もう戻ってほしくないから。
ヨソプさんが想っていた、あなたを想っていたなまえ姉さんはもう、どこにも居ない。
怨むのなら…自分を怨むんだ。
「っ、の…。」
「っ!なまえヌナ!」
「なまえ!」
ボクとヨソプさんが睨み合っていると、意識を取り戻したのかなまえ姉さんが声を溢した。
ゆっくりとした動作で目を開いていくなまえ姉さん。
ふと、絡み合う視線。
そのあとすぐに発したなまえ姉さんの言葉ですべてを理解し、そして大きな絶望を感じてしまった。
「ヨソプ。」
なまえ姉さんは、記憶を全部…取り戻したんだ。
希望か絶望か
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