「ヨソプ。」
ヨソプさんの名前を呼ぶなまえ姉さんの瞳には、確りとヨソプさんの顔が映っていた。
つまりはすべてを思い出し、そしてまた…もしかしたら、あんなことをしたヨソプさんを受け入れようとしているのかもしれない。
なまえ姉さんは誰が見ても解るくらいに、ヨソプさんのことを心から愛しているように見えた。
何があろうが見えるのはヨソプさんだけで、他の人から誘われてもバッサリと断るくらい。
その姿が一番、嫌いだったんだ。
あのときのなまえ姉さんの気持ちがまた現れたのなら。
ボクはもう、何も言うことは出来ない…はずなのに。
それなのに、なまえ姉さんが記憶を失っていたときに接したあのときの感覚、期待が忘れられない。
「なまえ…良かった。記憶、全部戻ったんだね。」
「ええ…全部、戻ったわ。」
なまえ姉さんに記憶が戻った、ということが解ったのは、何もボクだけではない。
ヨソプさんも気付いて、なまえ姉さんに記憶が戻ったことを喜んだ。
穏やかに微笑むなまえ姉さんは、今はもうボクではなく、ヨソプさんだけを見ていて。
すごく嫌だと思った。
過去に囚われていたのは、ヨソプさんではない。
記憶を失っていた頃に囚われていたのはボクの方だったんだ。
何度もボクと恋仲だったのかと訊いていたなまえ姉さん。
そのなまえ姉さんなら、ボクを見てくれると思っていたことを否定することが出来ない。
記憶が戻らない確証なんて、そんなものどこにも無かったのに。
それなのにどうしてボクは、安心してしまっていたんだろうか。
「やっぱりオレはなまえしか本気で愛せないから…。もう一度、やり直しをさせてほしい。」
俯いていると、ヨソプさんはもう一度ヨリを戻そうと言い出した。
もしこれで、なまえ姉さんが肯定を意味する言葉を言ったなら…。
ボクはまた、黙って見ていることしか出来なかったことになる。
そんなの、もう嫌だ。
何もしないで後悔するくらいなら、何かアクションを起こして後悔するほうがよっぽどマシ。
そう思っていると不思議と身体は素直に動き、なまえ姉さんとヨソプさんの間に割り込んだ。
「あなたにヌナは渡せません。」
ねぇ、なまえ姉さん。
もしも姉さんにまだ、あの記憶を失っていた頃の感情があるのなら…。
ボクもまだ、期待しても良いよね?
眠りから覚めた姫
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