意識を取り戻して一週間。
わたしは"仲間"という人たち…そして、"家族"なのだという人たちにここで出会った。



「良かった…。心配したのよ?」

「オンニが無事で安心した。」

「記憶がないのは残念だけど、生きてくれているだけで良かったわ。」

「オンニのこと待ってるからね!」



家族でもあり仲間でもある、と言ったのは、今も見舞いに来てくれている女の子4人。
わたしはもう何年もの間、彼女たちとともに生活していたらしい。

同い年のヒョソン、ハナ…。
それから年下のソナとジウン。

彼女たちはわたしに記憶がないことを知っていたのか、はじめから丁寧に説明してくれた。
わたしが"SECRET"というアイドルグループの一員でもあり、弟グループもあるのだ、とまで。

アイドルというものの記憶はある。
テレビという箱の中で、歌って踊って…たまに演技をする人たち。
そんな煌びやかな世界にいるとは到底信じられなかったけど、彼女たちが持って来たCDには間違いなくわたしの顔があったから、それはもう信じるしかない。



「みんな、忙しいのに来てくれてありがとう…。仕事は終わったの?」

「まだ残ってるけど、少しでもなまえの様子を見たかったからマネージャーにお願いしたのよ。」

「また明日も来るからね?」

「うん。無理だけはしないで。」



わたしの質問に対して、にっこりと笑うヒョソンとハナ。
少しだけ気にはなるにしろ、こうやって時間を割いて来てくれているだけ本当に有り難い。

SECRETのことは、彼女たちに教えられてから勉強した。
今はとても忙しい期間だということも知り、解らないことだらけにしろ早く復活して楽にしてあげたいという気持ちも大きかったから…。
だから今、リハビリにも励んでる。

みんなもマネージャーも、それに社長までもが慌てなくても良いのだと言ってくれた。
だけど甘えてなんていられない。
きっと…落ち着くまでは彼女たちも無理してしまうから。
だから、早く復帰したかった。



「ヌナ、起きて…あ。」

「あら、また来たの?」

「他の子は連れて来ないのねー。」

「ふふ。いらっしゃいジュノン。」



それにもうひとり。
SECRETの他にも、頻繁にここへ訪れる人がいた。

はじめて会ったときは号泣されて戸惑ったけど、今はそんなことない。
彼も落ち着いているから、というのもあるんだけどね。

ひょっこりとやって来たのは、弟グループだというBAPのメンバー。
名はジュノン、と言うらしい。

ジュノンはSECRETの人たちよりもここに訪れ、見舞ってくれる。
いつも優しい瞳で見てくれるジュノンが、なんだか心地良かった。



「えー、ヌナたち早く帰って仕事してくださいよー。」

「ちょ、ジュノン生意気!」

「わ、やめてくださいよヌナ!」



嫌そうな表情を浮かべ、ヒョソンたちを追い返そうとするジュノンは…少し子どもっぽい。
本気になんてしていないヒョソンたちだけどジュノンは可愛いのか、からかうようにいじめる毎日。
それも見慣れてしまえば、随分と微笑ましい光景だった。

しばらくするとSECRETにはタイムリミットが来たらしい。
また明日来るから!、と念押しするかのように立ち去るみんなを見ていると、胸が暖かくなる。

記憶を失くしてから、失ったものの対価の大きさや孤独ばかりと戦っていたから…それが嬉しい。
必要とされているみたいで、わたしには堪らなく嬉しかったんだ。



「ヌナ、なまえヌナ。体調はどうですか?怪我の治りは…。」

「うん、もうあんまり痛くないわ。きっと治りかけだったのね。」



あんまり痛くない、なんてウソ。
たまに熱を持って痛くて堪らないときがあるけど、今にも泣き出しそうな顔で心配してくるジュノンがあまりにも不憫で…ウソをついた。

心配させたくない。
その一心だったのにジュノンは、ボクはなまえヌナのウソならすぐに見抜けます、なんて言って頭を優しく抱き抱えてきた。

頭を撫でられるその手の温もりは、さっきよりも大きくて。
さっきよりも大きな嬉しさと安心さに身体ごと包まれた。



「痛いなら痛いって言ってくださいね。ウソは嫌です。せめてボクにだけでも…本音を言ってください。」

「…うん。ごめんね、ジュノン。」



ありがとう。
その言葉は、ジュノンの服の中へと消えてしまっていた。






取り戻したもの


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