「なまえヌナ、来ましたよ。」



ジュノンはここのところ、毎日のように来てくれていた。



「なまえヌナはダンスが得意なのに歌もラップもイマイチで、いつもパートが少ないって言ってました。」



ジュノンが話してくれるのは、昔のわたしとジュノンのやり取りが主。
他にもヨングクを筆頭としたBAPメンバーのことも教えてくれたけど、出てくる会話で一番多いのはわたしとジュノンのやり取りだった。

ジュノンはいつも、愛しそうに目を細め、柔らかい表情を浮かべながら話をしてくれる。
その表情の意味が解らないほど、記憶を失ってはいなくて。
そんな表情を浮かべてくれるジュノンを見ていれば見ているほどに膨らんでくる、わたしの中の期待。

記憶の相手は…ジュノンなんじゃないだろうか。
そんな期待が淡く胸に浮かんできて堪らない。

ジュノンはきっと、遠慮して敬語で話してくれているんだ。
昔はもっと気さくに話してくれていたはず…。
わたしがそう信じたいだけなのかもしれないんだけど。

他のBAPメンバーにも、もちろん病室で会っている。
ヌナー、と群がってくるヒムチャンとデヒョンにも、冷静に見守ってくれているヨングクとヨンジェにも、鼻を鳴らしていたジョンオプにも…ジュノンと同じものはなくて。
だから、他のメンバーはないと思っていた。



「ねぇジュノン。ジュノンはわたしとどういう関係だったの?」

「…そんなの、ヌナと弟に決まってるじゃないですかー!」



だけど、いつもジュノンに訊いてもはぐらかされてしまう関係。
ふと悲しそうな表情をするのは、やっぱり思い出してほしいからこそのことなのだろうか。
ごめんね、そこまでは読めないや。

ジュノンが決まっていつも言うことが、ヌナと弟、という関係。
でもジュノンの目を見てる限りではそんなことなさそうだし、第一、ジュノンが毎日来て毎日そんな目を向けてくるせいで…わたしの心だって傾いてしまっているんだ。

きっと、昔も好きだったから。
だから…忘れたとしても新しくスタート出来るんじゃないだろうか。
…そんなことをSECRETのメンバーに言ったら、盛大に笑われちゃうんだろうけどね。



「ジュノン。」

「なんですか?なまえヌナ。」

「…ふふ。なんでもないわ。」

「えー。なんだか気になるじゃないですかー!言ってくださいよー!」



ジュノン、と呼び掛けると、可愛らしく振り返るジュノン。
そんなジュノンに、思わず胸がキュッと締め付けられる。

"好きよ"。
そう言ってしまいたいけど、今言ったら駄目な気がして…。
ううん、今言ってもジュノンに拒まれてしまいそうな気がしたから、その言葉は飲み込んだ。






向けられる視線


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