ある日のこと。
ジュノンもまだ来ないし、SECRETも来るにしては早過ぎる時間帯で暇になっていたわたしに、ひとつのテレビが与えられた。

これはマネージャーと社長のイキな計らいというものらしい。
ずっとこもりっぱなしでは飽きるだろうから、ということで万能なテレビが備え付けられた病室へとわざわざ移動させてくれたんだ。
これは復帰したときに大きな恩返しをしないと、見返りが合わないな。



「あ、みんなだ…。」



パッとテレビをつけると、そこにはステージに立つBAPがいた。
会場を乗っ取ったかのようなホイッスルの音に、激しいトラック。
そして低音ヨングクのラップに高音ジュノンのラップは、なんと言っても芸術的なものを感じさせられた。

重なれば重みや厚さが増すラップだけでなく、ダンスも逸材でヴォーカルだって負けてはいない。
普段ヘラヘラとしながらも可愛らしさとあどけなさを向けてくるジュノンとは、重ならなかった。

BAPが終われば、次はSECRETが出て来る。
どうやらこれはわたしも居たときのものらしく、5人でステージの上に立っていた。
…わたし、こんな風なんだね。

テレビの向こうで踊ったり、たまに歌ったりする自分に驚く。
ジュノンが前に言った通り歌のパートは愚痴りたくなるほど少ないけれど、その分ダンスパートでみんなを引っ張っていくようなポジションはかなり多くあった。
そうか、これが…わたし…。



「わたしっぽい…のかな。」



病院の衣類を着ていると、テレビの向こうで煌びやかな衣装を身にまとわせて踊り唄う自分がまったくもってイメージ出来ない。
偽物なんじゃ、とは思うけど、顔は毎朝見てる自分と変わらないからわたしで間違いはないんだろう。

曲を聴いても、歌詞なんてまったく出て来ないのに。
それなのに身体が勝手に動いてしまうのは…リズムを刻んでテレビの自分と同じ動きをしようとしてしまうのは何故なんだろうか。
やはり記憶は失ってはいても、身体は覚えている、ということなんだ。

SECRETの出番が過ぎると、他のアイドルたちが出だした。
記憶を失ったからなのか、知っているグループはSECRETとBAP以外にはなくて…少しつまらない。

適当に観ていても飽きてきたな、と思ってテレビを消そうとした。
そんなとき、だったんだ。



「っ!?ぅ…っ、あ…!!」



ひとつのグループが出て来て、激しい頭痛に苛まれる。
最近ではこんな頭痛がなかったからと安心していたのに、久しぶりに頭がカチ割れそうだ。

朦朧とする意識の中、確認するようにもう一度テレビに視線を向ける。
そこには"BEAST"とグループ名が大きく映し出されていた。

BEAST………。
BAPとも異なり、SECRETとも当たり前に異なるこのグループ。
このグループはいったい、わたしにとってなんだと言うのだ…?



「ヌナー、今日はなまえヌナが大好きなお菓子を…なまえヌナッ!?」



痛みに耐えるようにうずくまり、頭を抱えるわたし。
う、う、と溢れる声は嗚咽ではなくて、痛みを我慢する声だ。

ナースコールを押して、医師を呼ばなければいけないのに。
それなのに手が届かない。

どうしようかと思っていたタイミングで、ジュノンが現れた。
ジュノンは痛みに耐えるわたしを見るなり慌てて駆け寄り、ギュッと抱き締めてくれる。
ジュノンに抱き締められて少し安心はしたが、痛みは消えない。

手が届かないわたしの代わりに、ジュノンがナースコールを押して医師たちを呼んでくれる。
呼んでくれている最中も、わたしが医師に囲まれている最中もずっと…ジュノンはテレビを見つめていた。






重なるview


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