わたしが意識を取り戻して1ヶ月。
怪我の治りも順調らしく、運動不足のリハビリを含めたら2ヶ月ほどで復帰出来るらしい。

暇な中、わたしは病院に送られてくるファンからの手紙を読んでいた。
その中にはわたしの復帰を求める声もあって、本当に嬉しい。

でもまあ、多分…こんなに優しい手紙ばかりじゃないとは思う。
どれも上手い具合に細工されているけど、手元にある手紙はすべて開封済みとしか思えないから。
事務所の好意なんだろうけど、なんとなく申し訳ない気持ちになる。



「やっほーなまえ。」

「なまえオンニ、元気?」

「あら、みんな。」



手紙を読んでいると、SECRETのメンバーが顔を覗かせてきた。
みんなの話によると最近は少し落ち着いているらしく、こうして頻繁に訪れてくれている。

お土産にイチゴ買って来たよー、と季節外れのようなイチゴを出され、思わず頬が緩む。
自分の好物も忘れていたけど、みんなが教えてくれた。
どうやらわたしは、死ぬほどイチゴが大好きだったらしい。

持って来てくれたイチゴをパクパクと食べていると、ある一点で視線が止まっているヒョソンに目が行く。
その一点というのが、前々から少し気になっていた小さな箱。
その箱を見ているヒョソンは、なんだか表情が恐ろしく見えた。



「ヒョソン…?どうしたの?そんな怖い顔して…。」

「え?あたし怖い顔してた?」

「うん。」

「えー!やだ、ファンデーションが変に崩れちゃう!」



ふとヒョソンに話かけると、ヒョソンはハッとしたようにわたしの方へ意識を取り戻す。
自分では解っていないはずはなさそうだけど…訊いてはいけないような気がしたから深くは触れなかった。

SECRETとの話は、本当になんてことのない普通の会話。
でも最近はジュノンのことが増えていて、彼が語ってくれない自身の恥ずかしい話などを訊かされている。

そこでふと、思った。
やはりジュノンはわたしの恋人だったから、彼女たちは思い出させようとしているんじゃないか、と。



「ねぇ、ジウナ。」

「どうしたの?オンニ。」

「わたしとジュノンの関係って、どういうの?恋人だったの?」



一番わたしの近くに居たジウンに話かけると、ジウンは可愛らしい笑顔を向けながら答えてくれる。
ジウンに思っていた疑問をぶつけると、ジウンはもちろん、他のメンバーも固まってしまっていた。

…え、これは…どういうこと?
訊いちゃいけなかった…のかな?
自分で思い出せ、ってこと?

疑問はどんどん増えていくけど、その疑問をぶつけられるような空気なんかではなくて。
みんなも、あー…、とか曖昧な声を零すだけだった。



「ボクとなまえヌナは、本当に付き合ってないですよ。」



ジウンでもなければ、他の誰でもない声が耳に届く。
慌ててそちらに視線を動かすと、そこにはジュノンが立っていた。

"ボクとなまえヌナは、本当に付き合ってないですよ"と言うジュノンの表情が本当に悲しそうで。
なんだか苦しいくらいに胸が痛く締め付けられた。

みんなが戸惑う空気の中、ジュノンはそれだけを言って病室から去る。
待って!、とわたしが言ってもジュノンには声が届かない。
包帯に巻かれて自由が効かない身体では、立ち去るジュノンを追い掛けることすら出来なかった。
そんな自分が、すごく歯痒い。

ねぇ、ジュノン。
どうしてそんなに悲しそうな表情を浮かべるの?
どうして、辛そうにするの………?

わたしには、解らない。
ただひとつ解るのは、わたしが抱いた期待は儚いものだった、ということだけだった。






淡く儚い期待


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