あの日から、ジュノンがここを訪れることがなくなった。
それがとっても寂しいけど、合わせる顔がないのは事実。
"ボクとなまえヌナは、本当に付き合ってないですよ。"
その言葉ばかりが脳内を過る。
そうか、わたしは…ジュノンと付き合ってなかったんだね。
あれはウソをついているようには思えないから…きっと、あの言葉は本当なんだと思う。
「なまえヌナ!」
「あれ、ヒムチャナ?」
「ヌナー、オレたちも居るよー。」
「あらみんな。いらっしゃい。」
ジュノンの言葉が延々リピートしていた中、BAPのメンバーがわたしの病室にやってきた。
中に入って来た子たちは、ジュノン以外のメンバー。
ジュノンが居なくて落胆したのは事実だけど、安心してしまったのもまた事実で。
会いたかった。
でも、会いたくない。
そんな気持ちが交差して…なんだか気持ち悪くなる。
「ごめんね、ヌナ。ジュノン…今ちょっと居残りの仕事があってさ。」
「ううん、気にしないで。みんなが来てくれただけでも嬉しいから。」
わたしの反応を察したのか、ヨンジェが気を利かせてジュノンの様子を報告してくれた。
でも多分、ヨンジェの言葉はウソ…なんだろう。
メンバーひとり…それも末っ子を残して、こんなところに来る?
普通に考えたらあり得ないこと。
だから多分…ジュノンはここに来ることを拒んでいるんだろう。
そう考えるとどんどん落ち込んでしまうわたしは、本当にマイナス思考なんだと思った。
会いたいのに会いたくない、なんてワガママも思っているのに。
「なまえヌナ、ほら、元気だして!お菓子持って来たから食べよう!」
「うん、ありがとう。」
デヒョンに渡されたお菓子を受け取り、一口含む。
これ…前にジュノンが持って来てくれたお菓子と同じだ。
それがジュノンの姿を思い出させる材料になって、とても苦しくて。
思わず胸に手を置いてしまった。
「ねぇなまえヌナ。それ、ジュノンが選んでくれたんです。」
「え…?」
「自分は行けないから、って。」
お菓子を見つめていると、ジョンオプがにこにことしながらわたしの側に寄って来た。
そしてジョンオプが言ったことは、このお菓子をジュノンが選んでくれた、ということ。
それだけで顔と身体が熱くなる。
わたしは、知らない間にこんなにもジュノンのことを好きになってしまっていたらしい。
忙しいにも関わらず、毎日のようにお見舞いに来てくれて、楽しそうに話しをしながら明るく接してくれていたジュノン。
そして、向けられていた優しく、愛されていると思わされる視線が…愛しく思わせてくれていた。
過去の恋人が…脳裏に過る相手がジュノンだったら、どんなに良かったことか…。
ジュノンでなければ、もう誰でも良いとさえ思わされる。
「あ、ここのテレビいろいろ映るんじゃん!」
「おー!ちょうど番組やってる!」
お菓子を食べながらジュノンを思い出していると、テレビに気付いたデヒョンとヒムチャンが楽しそうにチャンネルをいじっていた。
病室では静かにしろ、と怒るヨングクとは反対に、久しぶりの騒がしさに笑みが零れる。
最近はジュノンも来なければ、ヒョソンたちも忙しくて来れていなかったから…懐かしい。
案外この喧騒さが、わたしは好きなのかもしれないな。
元気な弟たちだなぁ、なんて思っていたとき。
ヒムチャンが慌ててテレビを消そうとしているのが目に入った。
どうしたの?、と聞こうとしたときに入って来た映像を見て、久しく感じていなかった、あの…激しい頭痛に襲われる。
「やっ…!いた、痛い…っ!!」
「なまえヌナ!?」
「おい!早くテレビを消せ!」
頭を抱えて痛みに耐えるわたしに驚き、声を張り上げるジョンオプ。
そしてテレビを消せと怒ったように言ったヨングクに押され、慌ててテレビを真っ黒にした。
テレビの画面に映っていたのは、あの…この前の激しい頭痛の原因かもしれないBEASTの人たち。
どうしてBEASTを見たら頭痛に襲われるのかは解らないけど、もしかしたら失った記憶に関係しているのかもしれない。
『なまえ、これ。』
『え?…わ、可愛い!』
『ボクたちの4周年記念日のプレゼント。なまえに似合うと思って。』
『ありがとう!大切にする…!』
フラッシュバックされる映像。
誰かにネックレスを渡され、喜んでその誰かに抱き着くわたし。
この映像の何が彼らと関係しているのか…。
どこと結び付いているかは解らないけど…すごく自然に、まるで日常会話が行われるかのように誰かの名前が口から零れ落ちた。
「よ…そぷ…。」
"ヨソプ"が誰かは解らない。
BEASTのメンバーなのかさえ解らないし、もしそうであっても、誰がその"ヨソプ"なのかも解らなくて。
収まりそうにない頭痛に、だんだんと意識が薄れていく。
なまえヌナ!、という声がジュノンの声のように聞こえた自分に、思わず嘲笑いが出てしまった。
幻聴がきこえるなんて重症ね、なんて思いながらも、薄れる意識をふと手放してしまう。
目が覚めたら、ジュノンが居てくれますように、なんて祈りながら。
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