意識を失って、夢を見た。
夢なのかは解らない。
すごく、幸せそうに誰かに笑いかけているわたしが居た。
『ねぇ、次はどこに行く?』
『なまえの好きなところに行こ。』
『ふふ。いつもそればっかり。たまにはーーが決めてよ。』
『じゃ、実家にでも行く?』
『え…ッ!?』
夢なのか、希望なのか。
解らないけど、そこにいるわたしは笑っていた。
幸せそうだ、ということは解る。
実家にでも行く?、と言われて自分の驚きと幸せ加減が伝わってきた。
プロポーズ、というものなのかな。
そうなると、わたしはその人と結婚を前提にしているはずだし…お見舞いにだって、来てくれるはず。
でも、そんな人は来ていない。
来てくれるのは事務所の人間しか居ないから…ますます解らなくて。
どういうことか考えていると、視えていた視界が変わった。
『好きにしたら?』
『…お前、なにその態度。』
『ーーがそういう態度を取らせることをしたんでしょ。文句あるの?』
『っ…。』
これは…。
わたしは、誰かと喧嘩をしてる?
あまり良い雰囲気ではないこの場。
ピリピリと張り詰めているのが、こうして記憶…もしくは夢と思われるここからでも伝わって来た。
『ふぅん。否定しないんだ?まあ、お口が軽いあの子を恨めば?』
『は?あいつのこと悪く言うのはやめろって。なまえらしくない。』
『っ、煩い!ーーに何が解るの!』
わたしが怒鳴った瞬間、様々な感情が流れ込んできた。
苦しい。
辛い。
悔しい。
不安。
寂しい。
………悲しい。
胸がものすごく締め付けられる。
ボロボロと流れる涙を、わたしの先に居る人は拭ってくれない。
ただ泣いているだけ。
たくさんの感情が頭に流れて来て、すごく気持ち悪い。
ガンガンと痛む頭に倒れそうになったとき、目が覚めた。
「………夢…。」
目が覚めて、ふと窓の外を眺める。
外の景色は真っ黒で、もう夜だということを知らされた。
あ、ご飯…食べなきゃ。
細い簡易テーブルに貼られていた付箋を見て、ナースコールを押そうとしたときに違和感に気付く。
おでこに何かある…と思って触ってみると、そこには冷えピタのようなものが貼られていて。
誰が貼ったの…?、と思っていると病室の扉が開いた。
「ヌナ、気が付きました?」
「ジュノン…?」
頭を捻らせているときに登場してきたジュノン。
ジュノンを見ると優しそうな表情を浮かべていて、胸が苦しくなった。
良かった。
あの日以来避けられてると思っていたから…来てくれて嬉しい。
ジュノンは近くにあるパイプ椅子に座り、手にしていたビニール袋からスポーツ飲料を取り出した。
これ飲んでください、と言われて甘んじて受け取る。
「本当はお医者さん呼んだ方が良かったとは思ったんですけど…。思った以上にヌナが魘されてたから。」
どういうことなのか、ジュノンが言っていることが一瞬解らなかったけど、なんとなく理解出来た。
ジュノンは多分、どうして冷えピタを貼っているんだろう、と思われてるとでも思っているんだろうな。
確かに、ここは病院だから医師を呼べばすぐに適切な処置を施してもらうことが出来る。
でもジュノンは魘されているわたしに気を使ったのか、もごもごと医師を呼ばなかった理由を口にした。
「ありがとう。もう大丈夫。」
「良かった…。じゃあ、ご飯もちゃんと食べてくださいね。ボクが来たときにはもう紙はあったから…ずっと食べてないんじゃないですか?」
うん、と頷くとジュノンくんは呆れたように…でも優しく微笑んだ。
それにまた、胸がとくんと跳ねる。
ジュノンくんがわたしの代わりにナースコールを押し、来てくれた看護師に食事を持って来てもらうように頼み、そのまま帰ってしまった。
久しぶりに顔が見れて嬉しかったけど、早々に帰ってしまったことがなんだか悲しく思えて。
ワガママ、なのだろうか。
もっともっと会いたいと願ってしまうのは…ワガママ、なのかな…。
そんなことを思いながら、届いた食事に手を付ける。
病院食って…ひとりで食べるご飯って、やっぱり美味しくないや。
わたしはすっかり忘れていた。
あのときの夢のことを。
それは夢か記憶か
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