たまには良いかも

真夏の暑い日差しも消え去り、風も冷たくなってきた今日この頃。
ひとりで、秋だな、と呟くと、ヤるか、と返ってきた。



「秋だし一発ヤりますか。」

「何をだよ!!そしてなんでお前はここに居る!?」

「そんなのジュニョアに会いたかったからに決まってるじゃない。照れるー。」

「今すぐ土に帰れ。シャベル貸してやるから今すぐ帰ってくれマジで。」



ひとりで居たのにも関わらず、なまえの声が聞こえてきたのには驚かない。
俺の中にも、流石に慣れというものが生じてきているんだろう。
こんな慣れは嫌だ。

痴女よろしくな発言をするのもいつものことだし、俺が事務所の作曲用の部屋に居たにも関わらず忍び込んで来ているのも日常茶飯事のこと。
事務所も、いくら元従業員だからと言って簡単に入れるなよ。
せめて俺に報告くらいしてくれ。



「お前また仕事サボってんの?あんまりあいつらに迷惑掛けるなよ。」

「ブッブー!残念でしたーぁ。今日はなまえちゃんもTEEN TOPもおやすみなのです!ひゃっほーい!」

「季節外れのパーリーピーポーするのやめろ。鬱陶しい。」



こいつはいつもTEEN TOPのメンバーに搜索されている。
そうまでしても俺に会いに来てくれるのは嬉しいが、迎えに来て連れ去られる絡みを見ているとイライラして仕方がないから正直複雑だ。

今日は事務所でそんなものを見たくはない、という意味で遠回しにサボってるかどうかを確認すると、予想外の鬱陶しいテンションで返される。
やっぱりこいつ、埋めて来て良いかな。



「だから今日はジュニョアと、ジュニョアが気の済むまでたっくさんヤれるんだよ!ヤッタネ!なまえちゃん頑張る!」

「気が散るから帰ってしまえ。」

「やだもう照れ隠し。うふ。」

「(殺意。)」



人が集中して作曲している、と言うのにも関わらず、人のことをバシバシと叩いてくる馬鹿なまえ。
馬鹿力なんだから手加減しろよ、と思うくらいこいつの力は強い。
こんなことされると、だいたい数日は手形が残るほどだし。

ジュニョアはいつ終わるのかな〜、なんて下手くそな音程で即興するなまえ。
煩いし鬱陶しいとは思うけど、そんな仕草さえ可愛いと思えるほど俺はなまえを溺愛してしまっているらしい。
あまり認めたくはないけど。

近くにあるソファーに座り、ふんふふーん、と未だに歌っているなまえに降参してヘッドホンを置く。
チラリと視線を向けると、なまえは不思議そうな顔をしながら俺を見ていた。
顔文字で表すなら、"( *-* )"これだ。



「間抜けヅラすんな。…疲れたからどっか気晴らしに行くけど、来るか?」

「え、行く行く!デートする!」

「誰もデートとは言ってないだろ。」

「ジュニョアとデート!デート!」

「本当人の話を訊かねぇよな。」



ソファーに無造作に置いてたはずなのに畳まれていたパーカーを手にし、羽織りつつもなまえに目を向ける。

デート、のつもりは俺にもあった。
だけどシャイだシャイだと言われる性格のせいで素直に言えないけど、なまえはそれを気にもしていない。
それが心地良いんだけど。

持って来ていた荷物を持って、未だにくるくると回りながら喜んでいるなまえに声を掛けて部屋から出る。
にこにこと笑いながら、ジュニョアとデートなんて久しぶりだなぁ、と嬉しそうに呟くなまえに胸が締め付けられた。

こうして喜んでくれるなら…これからもちょくちょく誘ってやるか。
そんなことを思いながらも、俺はこれからのデートプランを考えていた。






(ペンギン可愛い!欲しい!買おう!)

(無駄遣い。なんで欲しがる?)

(ジュニョアにそっくりだもん!)

(…まあ、買ってやっても良いけど。)

(え、本当!?やった!)

(喜び過ぎだろ。)

(あと欲しがるってもう1回言って!)

(なんでだよ。)

(やらしいから録音する!)

(ンなこと大声で言うな痴女。)



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