大嫌いと大好き
昔…練習生の頃、あたしはなまえのことが嫌いだった。
*
「チョンなまえ。」
「はい。」
昔から、なまえには才能があった。
ラップも出来て、歌も上手い。
けれどズバ抜けて上手かったのは、ダンスだった。
先生に名前を呼ばれ、立ち上がるなまえと他数名の、先輩練習生。
今回は事務所と契約している会社のイベントに出るメンバーの、選抜だ。
ダンス縛りではなく、他のものだってちゃんとある。
だけど、あたしは選ばれず。
なまえは簡単に、涼しい顔をしてその選抜メンバーに選ばれていた。
それは、なまえが練習生となって、まだ半年ほどしか経過していない頃。
「チョンヒョソン、チョンハナ、ソンジウン、ハンソナ、チョンなまえ。社長室に向かいなさい。」
ある日のこと。
先生に呼ばれ、あたしと他4人は社長室に行くよう言われた。
なんとなく、予想出来たんだ。
多分、この5人でデビューするんだろうなぁ、って。
でもやっぱり、なまえはこの中では、少し浮いた存在だった。
「これからこの5人は、シークレットという名前でデビューするために特別レッスンを受けてもらう。」
社長から言い渡された言葉は、あたしの予想通りの言葉。
デビュー出来ることは嬉しかったけれど、そのデビュー組の中になまえが居ることが、当時のあたしにとってはあまり好ましいことでは無かった。
みんなが喜ぶ中、平然としているなまえに腹が立って。
ますます、なまえのことを嫌いだと思うようになっていた。
翌日から早速始まる、デビューに向けての本格的なレッスン。
なまえは主にダンスをメインでレッスンしているから、ボイトレとダンスをメインでレッスンしているあたしとはそんなに被らない。
だからこそ、さらに溝が深くなったようにも思える。
あたしは特別ダンスが得意なワケじゃ無いから、先生は特に厳しく注意をしてくきていた。
デビューに向けてのレッスンなのだから、厳しいことは理解出来る。
でも、頭の四隅では解っていても、何処か理解したくないとも思っていた。
「ソナ、なんか最近、頑張り過ぎてない?身体は大丈夫?」
「…うん、大丈夫だよ、オンニ。」
厳しいレッスンの中で生まれた、なまえに負けたくない、と言う気持ち。
その気持ちに押されてか、がむしゃらに練習するようになっていた。
それを心配してくれるヒョソンオンニは、いつも気に掛けてくれて。
大丈夫?頑張り過ぎてない?、と言ってくれるけど、あたしからしてみたらまだまだ、なまえに追い付けないから全然頑張れてないように思えた。
だけど身体は正直なもので。
過度なトレーニングなどが祟ったのかなんなのか、あたしはついに、ダンスレッスン中に倒れてしまった。
「…あれ、あたし…。」
「ソナ!だから頑張り過ぎてないか訊いたのに…っ!こんなに無理して!」
「過労だって言ってたよ。」
「頑張るのは良いことだけど、ほどほどにね。オンニたちに、あんまり心配させちゃ駄目だよ?」
倒れたあと、目を覚ますと事務所にある医務室のベッドに寝かされていた。
周りにはジウン、ヒョソンオンニ、ハナオンニが居て、なまえの姿はどこにもない。
ヒョソンオンニたちの心配の言葉もそこそこに、あたしは、なまえがこの場に居ないことが、なんだかとても腹立たしく思えて仕方がなかった。
だって来ないってことは、あたしには興味がない、心配する価値もない、ってことなんでしょう…?
そうは言われて無いけど、なんだかそう言われているみたいで悔しくて。
なまえ嫌いに、拍車がかかった。
そうこうして、なまえと打ち解けないまま、デビューまであと僅かとなっていたある日のこと。
5人でデビュー曲のダンスレッスンを受けていたとき、あたしのミスで何度も止められていた。
落ち着くために休憩を挟む、と先生に言われて、逆に落ち込んでしまう。
こうやってみんなの足を引っ張っていることが、かなり悔しくて堪らない。
水飲む?、とジウンはペットボトルを持って来てくれたり、ヒョソンオンニはタオルを渡してくれたり、大丈夫?解らないなら教えようか?、と声を掛けてくれるハナオンニ。
その中でも、なまえだけはあたしをチラチラと見るだけで、近付いて来ることは疎か、声も掛けて来ない。
「っ!言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ!」
日々のストレスが溜まっていたのか。
気付いたら、ジウンやオンニたちを押し退けて、なまえのところへと行き、肩を掴んで叫んでいた。
それに驚くジウンとオンニたち。
当の本人は、無表情のままあたしをジッと見つめていて、さらに腹立たしい気持ちにさせられた。
「あたしのせいで練習の足を引っ張ってるって言いたいの!?そうよね!あたしばっかり間違ってるんだもの!あたしが倒れたときだって興味もないのか様子を見にさえ来なかったしね!」
「ちょ、ソナ、落ち着いて…!」
「あんたは良いわよ!恵まれた才能があって、容姿だって良くて、みんなから重宝されて!いっつも涼しい顔して飄々としてる…っ!どうせあたしみたいななんの取り柄も無い女のこと、ずっと見下してたんでしょ!?」
「ソナ!いい加減に」
「あんたなんて、大嫌いよ!!」
自分でも、理不尽な言葉も言って、酷い言葉も言ったと自覚はあった。
でも、ジウンやヒョソンオンニに止められても言葉は止まらなくて。
一回口にしたら、言葉というものは訂正することが出来ない。
昔誰かに言われてから、言葉は選ぶようにしていたけど…。
今回は余程頭に血が上っていたのか、そんな余裕は無かった。
これから一緒にデビューする相手に、大嫌い、だなんて。
我ながら子どものようだとも思ったけど、何も言わないでもやもやするよりはマシだろう。
溜めていたものが爆発した。
なまえの反応が怖くて、下を向いていたけど…ふと顔を上げてなまえの表情を見て、驚いてしまう。
「…ごめんなさい。」
なまえは、ひどく傷付いた表情を浮かべながら、謝ってきたんだ。
「ソナ…さんが倒れたときは、ソナさんに教えられるように、先生から教えてもらっていて…、でも、結局…教えることが、出来なくて…。」
ボソボソと紡がれる、か細い声。
なまえは、こんなか弱い、か細い声の持ち主だっただろうか。
…否。
なまえの声を、話す声をちゃんと訊いたのは、これが初めて、だった。
「…不愉快な思いをさせていたのなら謝ります。わたし、感情を出すのと、人と話すのが…あまり、得意じゃなくて…やっと、オンニたちやジウンと、普通に話せるように、なりました。」
「なまえ…。」
「でも、」
傷付いた表情を浮かべるなまえの隣に寄り添う、ハナオンニ。
ハナオンニはハナオンニで、心配そうになまえの顔を見つめていた。
ヒョソンオンニとジウンも、なまえのことも心配なのか、チラチラとなまえの顔を見ているのが解る。
そうか、3人は、先になまえと、打ち解けていたんだ…。
そんなことを思いながら、なまえの話に耳を傾けていた。
すると、でも、と力強い声で、なまえは話を切り替える言葉を告げる。
「わたしは、才能なんてありません。ただ…、努力しただけです。努力したから、結果になっただけなんです。」
力強い声、力強い瞳。
それが、まっすぐあたしを直撃する。
でもそのあとすぐ、弟や親友にも人にすぐ誤解を与える性格だから気を付けろと言われていたんですが…、と落ち込んでいた。
ああ、なんだ。
誤解していたんじゃない。
本当は優しいのに、不器用過ぎて、伝わらなかっただけ、なのね。
いつも飄々としていたのは、感情を出すのが苦手だったから。
あたしが倒れたときに医務室に来なかったのは、あたしに教えるため。
才能があったのは、努力をしたから。
「…ぶっ。」
「?」
「あはっ、あははははは!!」
「??」
突然笑い出したあたしに焦るみんな。
なまえなんて、おろおろしてるし。
何が感情を出すのが苦手、よ。
バッチリ出せてるじゃない。
「あんた不器用過ぎ。そんなんじゃ、みんなに嫌われちゃうよ?」
「…ごもっとも、です…。」
「敬語なんて辞めてよ!…これから、一緒にデビューするんだから。さん付けなんて禁止だからね!なまえ!」
何がなんだか、よく解らない。
だけど、すべてが誤解から生まれたものだと解ったら、スッキリして。
逆にこの子のことを守りたいと。
不思議と強く思っていた。
すっかり態度が豹変したあたしに驚いている4人。
なんだかその様子すら面白くなってきて、ひとりで笑っていた。
*
「ソナ、寝てる…の?」
「ううん起きてるよ。どうしたの?」
「お昼だから、ご飯、食べようと思ったんだけど、食べに行く?」
「そうね。行こうか。」
あれから数年。
あたしたちは、もはや親友のような関係になっていた。
一度はぶつかったからなのか、言いたいことは素直に言えるし、仲直りもキチンと出来る良い関係。
まあ、腐れ縁でもある親友のエンさんには負けるけどね(あとデヒョン)。
昔のことを考えると、あのときは申し訳ないとは思うけど、あれがあったからこそ、今の関係があるんだと思えるから気にはしていない。
楽しそうに鼻歌を歌いながら出掛ける準備をするなまえも、素直に可愛いと思える。
あー、やっぱり、レオさんには勿体無いんじゃないかな。
うちのなまえは飛び切り可愛いから。
「?ソナ、行かないの?」
「ううん、行くよ。待ってて、お財布持って来るから。」
昔は嫌いでも、今は好き。
大嫌いだったけど、今は本当に、なまえが大好きだから。
これからもずっと、シークレットとして仲間であって、親友で居て欲しい。
そう思いながら、財布を取りに自室へと戻って行った。
(あ、テグナから電話…。)
(?出ないの?)
(うん。ソナと居るから出ない。)
(気を遣わなくても良いのに…。)
(…だって、ソナと話したいから。)
((何この可愛い生き物。))
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いろいろとすみません…。
ソナちゃんはこんな子じゃ無いですよね、いい子ですよね…。
こここ、これはフィクションなので!
本人様とは異なります…!←当たり前
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