ウギョル
なんて言うか、言われたときはピンと来なかった。
まあ僕もいい歳いってるし、来てもそうそうおかしくはない話。
そっか、僕がウギョルか。
そんな感じ。
あんまり、ワクワクもしなければ喜ぶことさえしなかった。
「いやー、まさか俺らのグループにウギョルの話が来るとは思ってもみなかったわー。」
「しかもヒョンですよ。全然、想像すら出来ない。」
「放送事故になったりして。」
メンバーは僕のウギョル出演を笑うだけで、それこそお祝いなんかも一切無かったりする。
いや、別に良いんだけどね。
仮想結婚なんかでお祝いされても、なんか微妙な気もするし。
そういうのは、テレビ用のコメントだけで十分だ。
それに、タイトルはウギョルだけど、今回は特別版らしく結婚ではない。
仮想の恋人同士として、一ヶ月か二ヶ月にかけて放送するらしかった。
だから尚更、お祝いの言葉なんてあるわけがない。
今日出演する番組の収録を終えて、マネージャーからウギョル特別版への出演が決まったと告げられた。
僕に拒否権なんて一切無くて、オファーが来たその日に二つ返事でオッケーを出したらしい。
「で、これからどうすんの?」
「もしかしてお前だけ別行動?俺たちはもう、仕事無いし。」
「さあ…。そうかも。」
今日はさっき言った番組収録が終わったら、仕事は無かった。
だからつまり、これから仕事があるのは僕だけで、みんなは休み。
なんだかそれが、ちょっと羨ましい。
ひとまず、ここの楽屋に長居することは不可能だから解散することに。
ウギョルの収録はここではなく、違う場所で行うらしいから、僕もメンバーと一緒にバンに乗り込む。
バンの中でも相変わらずな騒がしさ、賑やかさだけど、僕はそれが嫌いじゃなかったり。
みんなの声をBGMとしながら瞼を閉じていると、気付いたらバンの中で寝てしまっていた。
*
「おーい、起きろー。着いたぞ。」
「あと5分…。」
「馬鹿。ウギョルの収録だし。仕事なんだから、無理に決まってんだろ。」
「んー…。」
いつの間にか寝ていた僕は、マネージャーに起こされた。
メンバーが起こしてくれても良かったのに、とは思ったけど、メンバーは僕なんかよりも外に夢中な様子。
何があるんだろう。
メンバーの姿を見つめていると、なんだ起きたのかよ!ここすげぇよ!、と数人が騒ぐものだから、思わず耳を塞いでしまった。
声が大きくて、寝起きには響く…。
騒ぐメンバーは放置することにして、バンから降りる。
そして外を見た瞬間、みんなが騒いでいた理由が解った。
「わー…。」
なんて高そうなホテルなんだろう。
高級感溢れるホテルからして、もしかしたら僕の彼女はものすごく大物なのかもしれないなぁ。
大物だったらあんまり粗相は出来ないし、気を遣ってばかりになりそうだ。
そうなったら、それこそ放送事故になってしまう。
それだけは避けるようなんとかしないとなー、なんて思っていたら、マネージャーにこのホテルの72階へ行くように告げられた。
ここのホテルは、72階から75階までがパーティーホールになっているらしいから、そのワンフロアをウギョルで貸し切ったんだとか。
最近のウギョルも、結構手が込んでいるもんなんだ。
「マネヒョンは?来ないの?」
「あー、俺はあとから行くよ。あいつらをいつまでも放置するわけにもいかないからな。」
「ふーん。ま、そっか。」
僕がホテルに向かおうとしても、マネージャーは動かなくて。
それで振り返って来ないのかと訊いてみると、マネージャーは苦笑いを浮かべながらついて来ない理由を述べた。
まあ、確かに僕たちはアイドルだし。
簡単に長時間そこらへんに放置してたら大変なことになるしね。
マネージャーは多分、僕がホテルに入ったらメンバーを宿舎へと送り届けに行くんだろう。
ちょっと心細いなぁ、と思いながら、僕はそのホテルの入り口を潜った。
「72階、か。」
エレベーターに乗り込み、目的階のボタンを押して扉を閉める。
これ、もう撮影始まってたりするんだろうか?
ウギョルってたまに気付かないところから撮影始めてるし。
もし撮られてたら下手なことは出来ないなー、と思いつつ、到着を待つ。
誰だ、こんなに無駄に高層な作りでホテルを造ったのは。
結構道のりが長い…。
ようやく目的階に到着し、パーティーホールの中に入る。
どうやら僕の相手はまだ来ていないみたいで、端に置かれていたテーブルと椅子のセットで寛ぐことにした。
流石に此処まで来ると、ウギョルのスタッフたちも解りやすく存在してる。
照明とカメラの数が、半端じゃない。
「(相手、誰だろう。)」
スタッフさんに珈琲を手渡されたのでそれを受け取り、口に運ぶ。
この珈琲には何も入っていないみたいで、ブラックの旨味が口の中にワーッと広まった。
それにしても、相手は誰なんだろう。
こういうホテルを用意しないといけないような人?
だったら絶対、僕よりもだいぶヌナなんだろうな…。
ーーーせっかくだし、可愛いとか綺麗とかで同い年くらいの子がいいなぁ。
そんなことを思っていたら、ホールの扉がゆっくりと開いた。
僕の彼女と、いよいよご対面。
視線をそちらに送ってから、思わず頬が緩んでしまう。
だって、相手は僕が想像したような、おばさんとかではないから。
「はじめまして、僕の彼女さん。」
僕の彼女は、同期でもあるシークレットのリンちゃんだった。
((僕ってラッキーなのかな。))
((リンちゃんとなら楽しそう。))
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