ウギョル


なんて言うか、言われたときはピンと来なかった。
まあ僕もいい歳いってるし、来てもそうそうおかしくはない話。

そっか、僕がウギョルか。

そんな感じ。
あんまり、ワクワクもしなければ喜ぶことさえしなかった。



「いやー、まさか俺らのグループにウギョルの話が来るとは思ってもみなかったわー。」

「しかもヒョンですよ。全然、想像すら出来ない。」

「放送事故になったりして。」



メンバーは僕のウギョル出演を笑うだけで、それこそお祝いなんかも一切無かったりする。
いや、別に良いんだけどね。
仮想結婚なんかでお祝いされても、なんか微妙な気もするし。
そういうのは、テレビ用のコメントだけで十分だ。

それに、タイトルはウギョルだけど、今回は特別版らしく結婚ではない。
仮想の恋人同士として、一ヶ月か二ヶ月にかけて放送するらしかった。
だから尚更、お祝いの言葉なんてあるわけがない。

今日出演する番組の収録を終えて、マネージャーからウギョル特別版への出演が決まったと告げられた。
僕に拒否権なんて一切無くて、オファーが来たその日に二つ返事でオッケーを出したらしい。



「で、これからどうすんの?」

「もしかしてお前だけ別行動?俺たちはもう、仕事無いし。」

「さあ…。そうかも。」



今日はさっき言った番組収録が終わったら、仕事は無かった。
だからつまり、これから仕事があるのは僕だけで、みんなは休み。
なんだかそれが、ちょっと羨ましい。

ひとまず、ここの楽屋に長居することは不可能だから解散することに。
ウギョルの収録はここではなく、違う場所で行うらしいから、僕もメンバーと一緒にバンに乗り込む。

バンの中でも相変わらずな騒がしさ、賑やかさだけど、僕はそれが嫌いじゃなかったり。
みんなの声をBGMとしながら瞼を閉じていると、気付いたらバンの中で寝てしまっていた。







「おーい、起きろー。着いたぞ。」

「あと5分…。」

「馬鹿。ウギョルの収録だし。仕事なんだから、無理に決まってんだろ。」

「んー…。」



いつの間にか寝ていた僕は、マネージャーに起こされた。
メンバーが起こしてくれても良かったのに、とは思ったけど、メンバーは僕なんかよりも外に夢中な様子。
何があるんだろう。

メンバーの姿を見つめていると、なんだ起きたのかよ!ここすげぇよ!、と数人が騒ぐものだから、思わず耳を塞いでしまった。
声が大きくて、寝起きには響く…。

騒ぐメンバーは放置することにして、バンから降りる。
そして外を見た瞬間、みんなが騒いでいた理由が解った。



「わー…。」



なんて高そうなホテルなんだろう。
高級感溢れるホテルからして、もしかしたら僕の彼女はものすごく大物なのかもしれないなぁ。

大物だったらあんまり粗相は出来ないし、気を遣ってばかりになりそうだ。
そうなったら、それこそ放送事故になってしまう。
それだけは避けるようなんとかしないとなー、なんて思っていたら、マネージャーにこのホテルの72階へ行くように告げられた。

ここのホテルは、72階から75階までがパーティーホールになっているらしいから、そのワンフロアをウギョルで貸し切ったんだとか。
最近のウギョルも、結構手が込んでいるもんなんだ。



「マネヒョンは?来ないの?」

「あー、俺はあとから行くよ。あいつらをいつまでも放置するわけにもいかないからな。」

「ふーん。ま、そっか。」



僕がホテルに向かおうとしても、マネージャーは動かなくて。
それで振り返って来ないのかと訊いてみると、マネージャーは苦笑いを浮かべながらついて来ない理由を述べた。

まあ、確かに僕たちはアイドルだし。
簡単に長時間そこらへんに放置してたら大変なことになるしね。

マネージャーは多分、僕がホテルに入ったらメンバーを宿舎へと送り届けに行くんだろう。
ちょっと心細いなぁ、と思いながら、僕はそのホテルの入り口を潜った。



「72階、か。」



エレベーターに乗り込み、目的階のボタンを押して扉を閉める。
これ、もう撮影始まってたりするんだろうか?
ウギョルってたまに気付かないところから撮影始めてるし。

もし撮られてたら下手なことは出来ないなー、と思いつつ、到着を待つ。
誰だ、こんなに無駄に高層な作りでホテルを造ったのは。
結構道のりが長い…。

ようやく目的階に到着し、パーティーホールの中に入る。
どうやら僕の相手はまだ来ていないみたいで、端に置かれていたテーブルと椅子のセットで寛ぐことにした。

流石に此処まで来ると、ウギョルのスタッフたちも解りやすく存在してる。
照明とカメラの数が、半端じゃない。



「(相手、誰だろう。)」



スタッフさんに珈琲を手渡されたのでそれを受け取り、口に運ぶ。
この珈琲には何も入っていないみたいで、ブラックの旨味が口の中にワーッと広まった。

それにしても、相手は誰なんだろう。
こういうホテルを用意しないといけないような人?
だったら絶対、僕よりもだいぶヌナなんだろうな…。

ーーーせっかくだし、可愛いとか綺麗とかで同い年くらいの子がいいなぁ。
そんなことを思っていたら、ホールの扉がゆっくりと開いた。
僕の彼女と、いよいよご対面。

視線をそちらに送ってから、思わず頬が緩んでしまう。
だって、相手は僕が想像したような、おばさんとかではないから。



「はじめまして、僕の彼女さん。」



僕の彼女は、同期でもあるシークレットのリンちゃんだった。






((僕ってラッキーなのかな。))

((リンちゃんとなら楽しそう。))


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