ボーイフレンドとガールフレンド


まさか、彼がわたしの恋人になるとは思ってもみなかった。
これはますます、テグンには連絡した方が良いのかもしれない。



「はじめまして…。シークレットのリン、です。よろしくお願いします。」

「硬いなぁ。多分もう収録始まってるし、僕たちは同期だから…もう少し気楽にしようよ。」



挨拶をすると、ヘラッと笑う彼。
なんだかとてもヘラヘラとはしているけど、癪に障るような感じでは無い。

同期だからもう少し気楽にしようよ、とは言うものの、わたしたちよりもだいぶ売れている人たちにそんな馴れ馴れしいことは出来ないのが本音。
わたしが馴れ馴れしく出来るのはメンバーに対してとデヒョン、ヨングク、ヒムチャン、ハギョン。
そして、テグンに対してだけだ。

だけど、彼が言うことも解る。
収録が始まっているのなら、確かに親しくした方が良いのかもしれない。
逆に、こうして硬くなっているのもウケが良いかもしれないけど。



「僕はビーストのヒョンスンです。」



わたしに硬いと散々言っていたけど、彼もなかなか硬め。
そう、わたしのウギョルの相手は野獣系アイドルとして同期デビューしたビーストのメンバー、ヒョンスンさん。

手を差し出して来たので、逆らうことなくギュッと握る。
ヒョンスンさんはニコニコとしているのにも関わらず、わたしの顔は少し、引き攣っていたと思う。

様々な場面で、四次元人間、と呼ばれているヒョンスンさんに、早くも心が折れそうになった。
ああ、わたし、大丈夫なんだろうか。



「?あ、ミッションカード…。」



握手をしたまま無言が広がるという、放送事故そのものな今の状況。
そんな状況の中に、スタッフさんからミッションカードを手渡された。

ミッションカード…、と呟くと、それに反応したヒョンスンさんがわたしにグッと近寄る。
ファンの子から怒られないと良いんだけど…わたし、大丈夫かな。

さりげなくヒョンスンさんと距離を取ってから、ミッションカードを見る。
ミッションの内容は、まあなんと言うか…在り来たりなものだった。



「えっと、おふたりは今日から晴れてカップルです!初デートはお食事に行きましょう!だって、リンちゃん。」

「え?あぁ…、そうですね。…何処に行くんですか…?」

「場所は僕たちで決めてって書いてるけど、行きたいところある?」

「えっと…。これと言って、特別行きたいところは…。」



ミッションの内容は、ふたりで食事に行く、という内容だった。
場所は何処なのか、と訊けば、場所はわたしたちで決めて良いらしい。

こういうミッションを出すのなら、場所くらい決めておいてほしかったな。

場所はわたしが行きたいところで良いと、さりげなくレディーファーストを出して来るヒョンスンさん。
行きたいところ、と言っても、知っている場所はほとんどテグンと行く場所だから、安易にどこどこが良いなどとテレビでは言えない。



「じゃ、僕が行きたいお店で良い?」

「あ、はい…。大丈夫、です…。」



どうしようか…、と考えてあぐねているとヒョンスンさんは笑顔で自分の行きたいところで良いかと訊いてきた。
こういうとき、そうやって提案してくれるととても助かる。

大丈夫です、とそれに同意すると、じゃあ早速行こう!、と大胆にも手を繋いで歩き出したヒョンスンさん。
うわ、手なんて繋いで…わたし、本当に生きていられるのかな…。
ビーストのファンが恐ろしいです。

手を繋いでホテルから出て、用意されていたバンに乗り込む。
ヒョンスンさんは運転をするスタッフさんと話をしてから、わたしの隣に乗って来た。

どうしよう。
ビーエイピーのメンバーやハギョン、それからテグン以外の男の人の隣って初めてだから緊張しちゃって、なおさら話せない…。



「リンちゃん、もしかしてだけど緊張してる?」

「…はい。」

「あは、そっかぁ…。僕も緊張してるから、一緒。大丈夫だよ。」



困ったなぁ、と思っていると、ヒョンスンさんがわたしの顔を覗き込んで、緊張しているのかと訊ねてきた。
それに対して消え入るような声で肯定すると、ヒョンスンさんは笑い、自分も緊張しているのだと言ってわたしの緊張をほぐしてくれる。

…ウギョルの相手がヒョンスンさんで本当に良かったと思う。
ファンはやっぱり怖いけど、それでもヒョンスンさんは優しいしとっても気遣いがあって、素敵な人だから。

まあ、まだ全然話してないし、解らないんだけどね…。
でも多分、いい人だと思う。



「着いたー!」



車に揺られて20分近く。
到着したのは、素朴な雰囲気でとても落ち着いた普通のご飯屋さん。
しかも多分だけど、日本の定食屋さんだと思う。

てっきり豪華な感じのお店にでも行くのかと思ってたけど、ヒョンスンさんも案外素朴なお店を好むんだ…。
ちょっと先入観があったかも。



「ここの"たくあん"、美味しいよ!」

「"たくあん"…?」

「そう!日本の"漬け物"で、僕が好きな食べ物。」

「そうなんですね。」



ヒョンスンさんがこの店を選んだ理由は、恐らくその漬け物が食べたいが故なんだろう。
もしかしたら他の理由もあるのかもしれないけど、たくあんの話をするヒョンスンさんは無邪気さ満載で。
よく観ていたトラブルメイカーやビーストのときとは、全然違っていた。

ガラガラと音を立ててお店の中へと入って行く。
中も本当に素朴で、韓国料理屋と似ているけれどやっぱり少し違った。

日本料理はそんなに食べないから、ちょっと新鮮かも。

ヒョンスンさんが話していたし、あらかじめ予約をしていたのか奥の目立たない席へと案内される。
このお店はそんなに人も多くなく、外観と同じく落ち着いた雰囲気を醸し出していた。



「僕、これ。リンちゃん決まった?」

「ふふ…。慣れてない…ですし、そんなに早く決められないですよ。もうちょっとだけ…待ってもらえますか?」

「あ!やっと笑った。」

「え?」



席に座ってメニューを見るなり、僕これ、と食べるものを決めたヒョンスンさんは、わたしにも決まったのかと訊いてきた。
ヒョンスンさんはここが馴染みみたいだけど、こういうところは慣れていないし、そんなに即決出来るほどの潔さは生憎持ち合わせていない。

さっきから子どもみたいに無邪気さ溢れるヒョンスンさんが面白くて、ついつい笑ってしまう。
するとヒョンスンさんは少し身を乗り出して、やっと笑った、と言った。

え?、と返すと、リンちゃんさっきから全然笑ってなかったもん、と少し拗ねたように言うヒョンスンさん。
そう言えば、緊張のあまり笑えていなかったような気がする。

それはテレビ的にNGなのに、わたしってば…。
それよりも、こうして笑うことが出来る空気を無意識にでも作ってくれたヒョンスンさんが有り難い。
やっぱりヒョンスンさんがウギョルの相手で良かった。



「あれ…?また、ミッションカード…みたいですね。」

「本当だ。じゃ、今度はリンちゃんが内容を読んで。」



わたしもようやく決めて、ヒョンスンさんの分もまとめて注文する。
そして数分と経たないうちに、スタッフさんから新たなミッションカードを手渡された。

またミッションか…。
まあ、最初の方はミッションが多いって訊いたような気もするし、仕方が無いのかな?

ヒョンスンさんに、今度はリンちゃんが読んで、と言われて言われるがままにカードを見る。
内容はやっぱり在り来たりなものではあったけど、確かに今のわたしたち…特にわたしには必要なのかもしれないような、そんな内容だった。



「待ち時間を使って呼び方などを決めて、親密度を高めていきましょう。」

「呼び方かー。じゃあ僕のことはヒョンスニオッパって呼んで?」

「え!?」



ミッションの内容を読み上げると、即座に反応したヒョンスンさん。
まずは呼び方を決めることにしたらしく、ヒョンスニオッパって呼んで、と笑顔で言ってきた。

最初から普通にオッパ…しかも親しい間柄の呼び方なんて…。
わたしにはハードルが少し、高くありませんか?

だけどヒョンスンさんの笑顔を見ていたら、無理です、なんて言えない。
ヒョンスンさんがウギョルの相手で良かった、って言ったけど、有る意味怖いからやっぱり…良くない、かも。



「わ、解り…ました…。」

「それからその敬語も駄目。恋人なのに敬語っておかしいし。ね?」

「は…う、うん…。」

「ん、それで良し!」



結局断りきれず、解りました、と言うと、言った瞬間に敬語も駄目だと言われてしまった。
確かに、ヒョンスンさん…ヒョンスンオッパが言う通り、恋人なのに敬語というのはおかしいだろう。

癖で、はい、と言いそうになったのを堪えつつ、うん、と返した。
さっきからわたし、ヒョンスンオッパのペースに持って行かれすぎだわ…。



「僕はリンちゃんのこと、なんて呼んだら良い?本名?」

「えっと…わたし、なんでも良いから任せる…よ。」

「じゃあなまえって呼ぶ。」



ヒョンスンオッパのことが終わったから、次は当たり前にわたし。
なんて呼んだら良い?、と訊かれたが正直変な呼び方じゃなければなんでも良いのが本音。

任せるよ、と言えば、ヒョンスンオッパは満面の笑みでわたしの本名で呼ぶことに決めたと言った。
そのヒョンスンオッパの笑顔に、思わずキュンと胸が締め付けられる。

待って…待ってわたし。
わたしはテグンのことが好きなのに、なんで胸が締め付けられるの。



「あ、もう出来たみたい!やっぱりここは早くて良いねー。」

「…うん。」



それからは普通にご飯を食べて、会話をしながらも収録は終わった。
帰るときにヒョンスンオッパはわたしのところに来て、これから当分よろしく、とちゃんと挨拶をして来たし、やっぱりヒョンスンオッパは根が良い人なんだろう(不思議ちゃんだけど)。

ただちょっと、わたしがヒョンスンオッパに飲まれそうになっているだけ。

テグン宛てに、ウギョルの特別編に出ます、という報告のメッセージを入れておく。
ハギョンやビーエイピーは…まあ、どうでも良いか。



苦労が耐えないウギョルが始まったと思うと、これからが苦痛に思えた。






(ただいま…。)

(なまえ!ウギョルどうだった!?)

(後輩なら釘を刺さなきゃね!)

(…ソナ、ヒョソンオンニ…煩い。)


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