後悔の念
カムバックの準備、ミュージックビデオの撮影とティーザーの撮影のために詰め込んでウギョルの収録をしていたらしいけど、次回の放送が少し先になるのでウギョルは一旦お休み。
今日は近日公開する、ティーザー写真の撮影。
最近は本当に目まぐるしくなるほど忙しいから、睡眠不足に悩まされていたくらいだった。
寝不足が原因で肌が荒れないと良いんだけどなぁ…。
休憩中にパッと携帯を開いてSNSを見てみると、そこにはいろんなメッセージが送られて来ていた。
あー、この前ウギョル収録があってから、携帯触る暇が無くて溜めたままスルーしてたっけ。
久しぶりにSNSを開くと、予想通りビーエイピーやハギョンからのメッセージが各2,3通だったけど、テグンからのメッセージは20通ほどあった。
しかも最近のメッセージには、今何してるの?、という文章。
そこまで気にすることもなく、取り敢えず撮影が始まるということで携帯を放置した。
…その判断が、間違いだったんだ。
「え…?」
「?どうしたのなまえ。」
「いえ…なんでもないです…。」
「そう…。」
ここでの撮影が終わって、メッセージを返そうと再び携帯を見てみると、そこにはテグンからのメッセージが5通増えているのが見えた。
新着メッセージとして表示されている文章には、どうして返事してくれないの?忙しい?何かやましいことでもしてるの?、とある。
なんで、どうしてこんなことになっているのか解らなくて。
混乱する頭をどうにか落ち着けながらも、テグンからのメッセージを開く。
テグンからのメッセージは、主にウギョルのことについて。
ヒョンスンオッパとの距離、それから繋がれた手やわたしのあの…動揺についてを指摘していた。
つまり、簡単に言うとテグンは嫉妬してくれていた、ということになる。
けれど忙しくて返事をしていなかった間にテグンは不安になったのか、どこで何をしてるの、などと束縛めいた、韓国人男性にありがちな行動を取りだしていた。
滅多に嫉妬しないテグンからの嫉妬は嬉しい…。
けれどすぐに連絡しなかったから、テグンに不安を大きくさせてしまって…これはあまり良くない展開だと思う。
取り敢えず普通に、最近カムバックの準備で忙しくて返せなくてごめんね…今もカムバック準備の収録や撮影中だからあとでまた返すね、と返した。
これが正解だったかは解らない。
けれどこのまま放置していたところで良いことなどひとつも無いだろうし。
「なまえ、別の場所に移動するけど…大丈夫?」
「…うん、大丈夫。行かなきゃ迷惑になるでしょう?」
ソナがわたしの様子を伺いつつ声を掛けてきた。
大丈夫?、という問い掛けに力なく微笑みながら、大丈夫、と言うとソナも少し困ったように微笑んだ。
どうしたら良いんだろう。
こんなすれ違いをしたことが無かったからこそ、対処法が解らない。
他のメンバーは少し気を遣ってか、明るく振る舞ってくれた。
その優しさが、痛いほど身に沁みる。
メンバーのため、カムバックを気分良く行うためにわたしがやるべきことはただひとつ…。
テグンと、話をすることだ。
こんな不安をテグンに抱えてもらいたくもないし、このままだと誤解を生みかねないから。
妬いてほしかったな、なんて軽く思っていたわたしが馬鹿馬鹿しいと思う。
ちょっと、軽く考えていたことが…実際に起こるとここまで酷くなるとは思いもよらなかった。
夜中の2時前。
撮影は夜の8時くらいには終わっていたけれど、そのあとまた練習になり、事務所にこもっていた。
明日もまた、朝からカムバックの準備に追われる。
そうなるとテグンに連絡をするのは…今しか無いし、あまり引きずるのも逆効果だと思うから。
電話の発信ボタンを押すにも、かなりの勇気が要る。
テグンの声を訊きたいと、いつもは今とは全然違う…不安な気持ちがどんどん募っていく。
『もしもし…。』
「て、テグナ…。あの、今…時間とか大丈夫…?」
『…ん、大丈夫…。』
機械音を聴けば聴くほど大きくなっていく不安。
それも数秒のことで、もしもし、と暗い…落ちた声色が電話から聞こえた。
時間大丈夫?、と訊くと、テグンは大丈夫だと答えた。
ここまで話したは良いが…これからどう言ったら良いのか…解らない。
『…今、何処に居る?』
「え…?宿舎…だけど…。」
『本当に?』
「えぇっ?」
どうしよう…どうしよう、と続ける言葉を考えていると、テグンが最初に言葉を発した。
テグンが言ったのはメッセージにもあったものに似ている…今何処に居る?という言葉。
それに少し戸惑いつつも宿舎だと答えると、すぐさま怪しむような声色で、本当に?、と訊いてきた。
そんな怪しむ態度は滅多になくて、えぇっ?、と思わず声を上げた。
どうしてそんなに怪しまれなきゃいけないの?
わたしはカムバックの準備で忙しいんだって、知ってるはずなのに。
それなのに、どうして?
「わたしはいつも宿舎に居るし…、それ以外ではちゃんとメンバーの誰かしらと一緒に居るよ…っ!」
『…ヒョンスンさんは?ヒョンスンさんとは、最近会ってる?』
取り敢えず、今日の目的は連絡がなかなか出来なかったことに対する謝罪とテグンの不安を取り除くこと。
だからいつも宿舎に居るし、宿舎以外ではメンバーの誰かしらと一緒に居るということを伝えた。
けれど、テグンの口から飛んできたのはヒョンスンオッパの名前。
ヒョンスンオッパに最近会ってる?、と訊かれ、かなりウギョルを引きずっていることが解った。
そりゃ確かに、わたしも逆の立場だったらテグンと同じ行動を取ると思う。
けど、今わたしは落ち着いていられるほどの余裕は無い。
カムバックの練習などが重なれば重なるほどストレスは溜まるし、体重だってどんどん減っている。
だから…。
だから珍しく、少し強い言葉遣いになってしまったんだ。
「ヒョンスニオッパとは3回目の収録以降会ってないけど…。」
『オッパ…?…プライベートでもそう呼び合うくらい親しくなったんだ。』
「別に…。ほぼ毎週のように収録で会って話してたら、そりゃ無意識でも言っちゃうでしょ。何、テグナはわたしのこと、疑ってるの?」
『別にそこまで言ってない。』
売り言葉に買い言葉、とは…まさにこのことだろう。
お互いが少し、ピリピリしていたのかもしれない。
いつもとは違った、強い口調。
引くことも止めることも出来ないところまで強く出てしまった勢い。
でも、ヒョンスンオッパはわたしが慣れていないこと、緊張していることに気付いて優しくしてくれたし、いい雰囲気を作ってくれているような、とってもいい人なのに。
そりゃちょっと、心は跳ねたけど…。
でもヒョンスンオッパのことは異性として深く意識していないし、簡単に言うならば、良いオッパとしか思っていなかった。
それが、なんだかすごく嫌で。
わたしのこと疑ってるの?、と言えばテグンも冷たく、別にそこまで言ってないのだと言い放った。
そこからはふたりとも黙ったまま。
時間も時間だったので、しばらくしてから明日も早いからと言って気まずいまま電話を終えた。
「なまえ、電話終わった?なんか言い合っていたような…え?なまえ?なんで泣いてるの…?」
ああ、謝ろうと思っていたのに。
「ソナァ…。」
どうして、喧嘩になったんだろう。
「ねぇ、どうしたの?レオさんと喧嘩したの?ねぇなまえ。」
「どうしよう…。テグナに嫌われたかもしれない…。人とのコミュニケーション…また…上手く取れないの…。」
溢れる涙が、止まらない。
今さらになって、あんな風に強くモノを言ったことに後悔してしまった。
少し考えたら、ウギョルで不安にさせ過ぎちゃっただけだって解るのに。
不安を取り除くことが、一番の目的だったのに…っ。
これじゃ今日の電話は無駄になる。
電話なんて…しなかったら良かった。
いろんなことを考えたら、なんだか視界が暗くなってくる。
気付けばソナの声が遠くに聞こえるようになって、視界には何も映ってくれていない。
襲い掛かる後悔は、自分ではもう、どうすることも出来なかった。
(ヒョソンオンニ!ハナオンニ!)
(ん?どうしたの?)
(なまえが…!なまえが!)
(なまえがどうしたの?)
(なまえが倒れちゃった…っ!)
(えぇ!?)
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